晴れない空の降らない雨

シュガー・ラッシュ:オンラインの晴れない空の降らない雨のレビュー・感想・評価

3.8
 見所は多く、本シリーズの変化球としての部分はかなり笑わせてくれたし、個々のアイディアにも光るものはあるのだが……佳境にさしかかるにつれ、「1つの作品に練り上げられていない」ことが気になった。
 そもそもウェブ世界をVR的に3D空間化するという発想がすでに新しくない。たしかに、SNSや動画サイト、ポップアップ広告などの3Dアニメーションによる戯画化・皮肉・揶揄は、「あるある」で面白い。何より、セルフ・パロディは突き抜けていて大いに笑えた。さすが『シンプソンズ』出身のリッチ・ムーア監督らしい。
 が、これらで何とか誤魔化せたとしても、主人公がくだらない動画を作り続けていたら、「いつの間にかお金が集まっていました」では、話としていかにも弱い。
 結局のところ、本作は場面のパッチワークにしかなっていない。終盤のアクションも行き当たりばったりである。そこに至るまでに仕掛けを散りばめといて「あの時のアレがこんな活躍するなんて!」と驚かすべきだろうに、それもない。本当に『ズートピア』の監督か、お前? おまけに最後はマジでセラピー。自分で自分を説得する捻りのなさ。「壊し屋」のアイデンティティそのままにラルフがヒーローに反転する、という前作の鮮やかさがまるで感じられなかった。
 
 だいたい、ラルフの改心を明白に示す瞬間がない。そもそもを言えば、本作のラルフがヴァネロペにやたらベッタリであることは、唐突に追加された設定にみえる。ここが妙に強調されるので、ラルフがペドおじさんに見えてくる始末である。話の前提部分に違和感がある。まぁ劇中でも前作から6年も経過しているから、この辺は流すとしても、「友情とは、いつも一緒にいて同じ考えをもつことではないよ」ということをラルフが受け入れる過程がみえてこないのだ。
 監督らによると、前作の最後のセリフが、本作の発想源だそうである。前作で、メダルがなくてもヴァネロペがいるからよい、とラルフは考えるに至った。これは、裏を返せば、ラルフは自己肯定感をヴァネロペに依存している状況だというワケだ。この発言を踏まえて観ると、不特定多数の「イイネ!」や辛辣なコメントといった、ラルフの自己承認にかかわる出来事が劇中に描かれていることがわかる。とくにコメントに傷ついた後では、「俺にはヴァネロペさえいればいいんだ」と自分に言い聞かせるように話している。とはいえ、こうしたラルフの心の動きから、この主題を思い浮かべろというのは不親切だろう。
 結局、この点でラルフがどういう決着をつけたのかも、キチンと描かれないままだ。つまりラルフ自身の独り立ちが描かれないことで、ヴァネロペの独り立ちをラルフが受け入れるという本作の主軸がぼやけてしまっているのではないか。
 これがラセター不在の影響だとしたら、ディズニーの今後を楽観視するのは難しい。