kyo

ザ・ビートルズ EIGHT DAYS A WEEK‐The Touring Yearsのkyoのネタバレレビュー・内容・結末

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このレビューはネタバレを含みます

今朝、街を歩いていたら突然、ビートルズの『Real Love』が降ってきて、ぼくのポケットにはいった(ぼくはそのことに気づいていなかった)。ところがポケットには穴があいていて、『Real Love』は足もとへ落ち、ぼくは落ちたことにも気づかず、そのまま通りすぎてしまっていた。

するとうしろからトントンと肩をたたかれ、「もしもし、おにいさん」とだれかの声。ふりむくと、二十代後半くらいのきれいな女のひとが右手に光るなにかを持ち、「いま『Real Love』をおとされましたよ」とぼくの目をまっすぐに見つめながらいう。そこで一瞬、どきんとしてしまい(彼女はとてもきれいだったのです)、ははん、これは魔女がぼくをおとしいれるために張ったなにかの罠にちがいない、ととっさに思い、「その『Real Love』はわたしのものではありませんよ」と、できるだけていねいにこたえてみた。

「そうですか、たしかにあなたの足もとからおちていくのを見たのですが……」

そういい残し、彼女はその『Real Love』を自分のバッグに入れてそのまま持ち去ってしまった。その日はいちにち『Real Love』のことで頭がいっぱいだった。昼間、仕事のあいまに「ひょっとしたら…」。夕方、珈琲をすすりながら「あれはほんとうは…」。夜、ベッドで横になりながら「ぼくの『Real Love』だったのかもしれない…」と、身もこころも『Real Love』の亡霊であふれてしまいそうになっていた。

深夜、おなかの真ん中あたりに異変を感じTシャツをめくりあげると、肌の表面がキラキラと発光している。そっと手でふれてみると、あたたかい。あたたかくてやさしい。やさしくてつよい。つよくてやわらかい。「ああ、これだ」とぼくはおもった。『Real Love』はだれのこころのなかにも初めから(何世紀も何光年も前から)あって、おとしても、与えても、うばわれても、なくなることのない光、泉のようにうちから湧き出てくる光、その結晶のようなものだったにちがいない──と気づいたそのとき、パッと目がさめ、ぼくは2018年春の自分の部屋にいた。

テーブルのうえにはひらきっぱなしのパソコン。YouTubeの画面は、昨夜きいていたビートルズ『Real Love』から、知らないだれかがおどるダンスの映像に変わっていた。

      *     *     *

 「あはは、なんだそりゃ」と友人は笑っていた。

 「ちょーいいじゃん、その夢!」「ちょーいいのよ」とぼくはこたえ、こたえた瞬間に、これを書き残しておこう、そう決めていた。「ビートルズでいちばんすきな曲ってなに?」友人はいった。「Real Love」迷わずそう返した。「ま、邪道っていうひともいるけどね。ははは」

ひょっとしたら地球は、まわるレコードのようなものなのかもしれない。夜がまたやって来て、ふいにそんなようなことを思う。だれかが大地にそっと針をおとす。風がそよぎ、空が割れ、ひとつ、ふたつ、みっつ、透明な音符がとびだしていく。

Only to be alone
Only to be alone
It's real love, it's really you
Yes It's real love, it's really you

きょうも愛とビートルズとともに。