10円様

光と禿の10円様のレビュー・感想・評価

光と禿(2016年製作の映画)
3.6
「スカム」という音楽のジャンルがある。スカムとは汚物やゴミといった意味であるが、それを音楽に置き換えると、あまりにも下手すぎて聴くに耐えないという侮蔑のイメージがあろう。実際音楽のメジャーシーンにスカムはその姿を見せる事は少ない。しかしそれが音楽ジャンルとしてカルチャーで活きているのは、「真似できない妙なグルーヴ」があるからだ。なろうとしてなるべくしたモノではなく、結果そうなったものという性格のジャンルがスカムだが、ノーテクなら全てがスカムになれるわけではない。そこには必ず音楽を超えるアーティストの強烈で独特な個性と表現方法があるのだ。(羨ましい!)

今作でクリトリックリスのスギムを初めて知ったわけだが、相当な不快感を覚えた。パンツ一丁の中年ハゲが叫びながら股間に付けたテルミンを鳴らしている。観客は大歓声も当然、スギムの歌?というかシャウトはその風貌に反してとても上手く、歌詞の内容も中年哀愁を等身大で捉えていて、その遅咲きの人生も相まって心に直撃する。クリトリックリスはスカムという位置付けらしいが全く違う。素晴らしいパンクではないか。ロックではないか。ヒップホップではないか。「俺はアーティストじゃないし〜」などとあんな凄まじいパフォーマンスをしていてそう語るスギムが不快であった。エンディングで流れる「1989」に巡り合えるだけでもこの映画は最高である。

クリトリックリスが音楽を始めたのが36歳。それまで音楽なんてやった事もなかったサラリーマンが勢いでステージに立ち、48歳になった今素晴らし気音楽野郎を魅了している。10円様の様な諦めと羨望の狭間にいる世代もまだスタートラインに立てるのだとその生き様で教えてくれる。この映画を観て良かった。クリトリックリスに会えて良かった。

って映画の内容には触れてないがヒロインの岸井ゆきのがすっごく可愛いかった。
10円様

10円様