emily

シークレット・オブ・モンスターのemilyのレビュー・感想・評価

3.6
 1918年、ベルサイユ条約締結のため、米政府高官が妻と息子とともにフランスに送り込まれた。息子の行動は両親の頭を悩ませていたが、お手伝いや家庭教師に任せきりで、気が付けば息子はどんどんゆがんでいき、怪物と化していく。。

 なぜ独裁者になってしまったのか?時代背景、家庭環境、大人たちに囲まれて過ごした少年時代を重圧感のある音楽と、黒を基調とした色彩、質感まで伝わる影の中に浮かび上がるインテリアの中、閉鎖的な空間の中で何も起こらないようで確実に何かが動きだし、独裁者になる基盤が出来上がっていくのだ。

 冒頭からその音の構成と色使いが印象的である。重低音の聞いた不穏な音楽、キリキリと音を立てるように体に刻み込まれる不気味な音のリズムが、窓に映る影や少年の後ろから捉えるカメラワークにより、常に何かを漂わせ、その見えない恐怖が少年の心情の揺れを加速させまっすぐな物をゆがんで見せてくる。

 美しすぎる物は恐怖である。少年は透き通るように美しく、彼の過ごす館の構図も非常に美しく、その美の隙間に溶け込むように、”歪み”を演出する。それは少年だけの歪みではない。母も父も弱い物には強要し、その手段も冷酷で愛情を感じさせない。少年は愛を受けず育ち、そのわがままは面倒な物として相手にもされずに来た。要はわがままが通ってしまい、それが当たり前になってしまい、徐々に徐々に怪物を周りの大人たちが形成していってしまうのだ。

 少年は勘が鋭く賢い。物覚えが良く人を惹きつける魔力がある。大人たちが怒るほど少年の中の怪物が喜ぶ。子供の頃育った環境はいかに大事かを改めて思い知る。子供は大人が思う以上に、何でも見ており理解している。ただ自分たちの都合で”子供である”事を言い訳に見ようとしていないのは大人の方なのだ。
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