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聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディアのEyesworthのレビュー・感想・評価

4.7
【手中にある供え物】

ヨルゴス・ランティモス監督×コリン・ファレル×ニコール・キッドマンの2017年のスリラー作品。

〈あらすじ〉
美しい妻と2人の子どもと共に暮らす心臓外科医のスティーブン。家庭の外で、彼は一人の少年マーティンを何かと気遣っていた。そんなある日、彼はその少年を家に招き入れ、家族に紹介する。するとその日を境に、家族に奇妙な変化が表れ始める…。

〈所感〉
『哀れなるものたち』『憐れみの3章』も見方によってはホラーだが、どこか滑稽で笑える所があったのが救いだった。それこそランティモス監督の作風なのかと思っていた。しかし、本作は笑いなど浮かべるタイミングすら無く、ギリシャ悲劇に準えた得体の知れない恐怖が巻き起こる。ボディブローのようにジワジワくる不気味な描写が多い。何よりファーストショットの心臓のキモさ。我々に一番近い距離にある一番キモイ物体。故意か偶然か、殺された家族の復讐としてその相手の家族を殺すのは認められるのか?否か?という難問を突きつけてくる一作。ラストのロシアンルーレットのようなシーンは衝撃的。コリン・ファレル演じる身勝手な主人公スティーブンの緩やかな狂い様が恐ろしい。妻のアンナを演じたニコール・キッドマンの『アイズ・ワイド・シャット』を彷彿とさせられる罪深い夫を支える完璧で冷酷すぎるパートナーぶり、衰えしらずの肉体がエロすぎた。マーティン役を演じたバリー・コーガンは気味悪すぎてあっぱれだった。
私も知らなかったが、タイトルの「鹿殺し」というのは、ギリシャ悲劇の『イピゲネイア』から来ているそう。こちら簡単な概要↓

『イピゲネイア』
トロイ戦争の英雄アガメムノンは、狩りの時、女神アルテミスが可愛がっていた鹿を殺してしまう。アルテミスの逆鱗に触れ、彼の娘イピゲネイアを生け贄に捧げるよう迫られる。アガメムノンに「ギリシャ軍の兵士と結婚させる」と言われ、喜んで母親と共にやってきたイピゲネイアは、父親に騙されたと知り、悲しみにくれる。母親や結婚相手と勝手にされた兵士が、何とかイピゲネイアを助けようとしたが、彼女は自分が生け贄になるしか国を救う方法は無いと決断し、祭壇で首を落とされる。
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