SatoshiFujiwara

聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディアのSatoshiFujiwaraのレビュー・感想・評価

3.6
タイトルを見て察しが付くが、さらにこの話の展開を見ればギリシャ悲劇の『アウリスのイピゲネイア』を翻案したんだなと分かる。劇中で主人公のスティーヴン(コリン・ファレル)演じる外科医の娘キムが『アウリス〜』についての文章で良い成績を取ったというシーンは明確な原作への言及。あるいは足にキスをするシーンは明らかにキリストだろう。本作でその立ち居振る舞いに訳の分からない過剰さを常に抱え込むマーティン(バリー・コーガンなる役者だがこいつが凄い…)はパゾリーニの『テオレマ』でのテレンス・スタンプ演じる青年よろしく外部からやって来て超自然的な力で秩序を破壊しそして去って行くのだが、彼は単なる破壊者ではなくある種の救世主であることも背後にキリストを想像させることによって観客にそれとなく示しているように思ったのだがどうだろうか。人の神経を逆撫でするようなリゲティやグバイドゥーリナらの現代音楽の使用、これと対照的にシューベルトのミサ曲は救済を象徴し、これもまた明確なコンセプトを感じさせる。

…と、この手の象徴性(ハッタリとも言う。悪い意味ではない)は相当に魅力的だとは思うんだけども、肝心の撮影やら演出がいささか微妙で、冒頭から気になったんだがどのシーンにもあるので選択の結果使っているのではなく単にやっているように見えてしまう微妙にゆったりとしたズームインとズームアウト、対話を活かさない決まらない構図(わざと外しているようにも思えないが、もしそうなら根源的なディスコミュニケーションをこれで表している、などと深読みしてみようか)、カット繋ぎのまずさ(例えばスティーヴンの妻アナがマーティンの家を訪ねるシーンとか)などで映画的感興を削いでいる。ちょっと惜しい気がしますね。どーでもいいけどスティーヴンが回る例のシーン、ぐるぐるバットを連想して笑いそうになってしまったんだけどもう少し上手い演出なかったんかいな。3人に命じてアトランダムに座らせてスティーヴンは目隠しするとか、でも絵ヅラは地味かな。

ともあれ結構楽しめる作品ではありました。繰り返すがマーティン役のバリー・コーガンが凄い。まじモンのサイコパスにしか見えない。
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