Mikiyoshi1986

聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディアのMikiyoshi1986のレビュー・感想・評価

4.1
初のヨルゴス・ランティモス監督作品!
とにかく脚本がめちゃめちゃ素晴らしかったです…!!
この辛辣極まる激重寓話に、終始パゾリーニのDNAをヒシヒシと感じておりました。

医師の過失によって、それと同等の対価を払わなければならぬ極上の不条理劇、もとい聖条理劇『the KILLING of a SACRED DEER』

医師の職務怠慢で遺族にじわじわ追い詰められてゆくプロットは、かつてのアンドレ・カイヤット監督の傑作『眼には眼を』をそのまま彷彿しますが、
この巧みな悲劇の構築は劇中でも触れられたギリシャ悲劇『アウリスのイピゲネイア』に起因する部分も大きそうです。

ギリシャ出身であるランティモス監督ならではのルーツには、こうした神話性を現代に甦らせる意図があるのかなと。
思えばパゾリーニもギリシャ悲劇に基づく作品を数多く手掛けていましたね。

神の怒りに触れ、自身の家族を生贄に差し出さねばならぬ『アウリスのイピゲネイア』には犠牲となる神聖な鹿が登場しますが、
本作ではタイトルにもある「鹿」はメタファとして扱われます。
善悪を正統に捉えながら、罪と罰を描き出す試みはとにかく白眉モノ!

神によって与えられた命を、現代社会で唯一合法的に取捨することができる特権者の医者スティーヴン。
そんな神の領域を侵しながらも贖罪を拒む彼が基点となり、家族に降りかかる奇病によって選択は迫られてゆきます。
人間性を詳らかに素描する後半は特に見処満載でした。

『ダンケルク』の少年を演じたバリー・コーガンが圧倒的な不気味さで存在感を披露!
ニコール・キッドマンは到底50歳とは思えぬしなやかな裸体を晒し、15歳の娘役ラフィー・キャシディのそれにもまったく引けを取りません。

『ビガイルド』でも共演したファレル&キッドマンのペアは、カンヌ国際映画祭で大健闘した年になりましたね。

正直この面白さは病みつきになりそう…!
劇場公開時に結局スルーしてしまった『ロブスター』も是非観てみようと思います。
Mikiyoshi1986

Mikiyoshi1986