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聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディアのhorahukiのレビュー・感想・評価

4.4
オッサンのわき毛に興味津々な少年マーティンくんが、オッサンに会いたいがために職場突撃したり鬼電したりして、家族を狂わせていくサイコホラー。

今年ベスト級な傑作!!
かなり難解なイメージで敬遠してましたが、劇場行かなかったことを後悔するレベルの大好物な作品でした。

冒頭から、セリフの中に現れる細かい情報のひとつひとつが数珠繋ぎとなって次々に連鎖し、少しずつ広がりを見せていく話運びが非常に丁寧。点と点が線となり、その線が複雑に交差し絡まり合い大筋を明らかにしていく。そしてそれにより小さなカタルシスの連続を作り出すことで静かな語り口ながらもある種の心地良さを観客に与え、物語に引き込み続ける。カンヌの脚本賞も納得な非常に優れた脚本だと思いました。

そして、特徴的なカメラワーク。キャラクターを前面もしくは背面から捉えたトラッキングと、ズームインアウトを多用することで、日常的なシーンながらも、どこか居心地の悪い違和感を観客に与える。流石にやり過ぎ感あるように思うけど、実際に終始おさまりの悪さとか気持ち悪さを感じたので、これが正解なんでしょうね。

そんで本作の大筋はホームインベージョンスリラー。平穏で円満。なおかつ両親ともに医者で非常に裕福かつ誰もが羨むような理想的な家庭。その家庭に侵略者が現れることで、家族の歯車が狂い始める。面白いのは、その侵略者による介入を許したのは父親のかつての過ちだというところ。

そして本作のさらに面白いところは、そもそも本当に侵入者による介入があったのか?ということ。夫に浮気された妻、初彼氏ができて家出を考える長女、思春期突入した長男の反抗期。そして職業的な危機を抱えた夫。それらを総合して全てを暗喩的に象徴する存在がマーティンなんじゃないかな。妻に浮気を告げ、長女を誑かし、タバコや男性としての身体の変化、女性との性的関係を長男に示し、職業上の重大な過失を父親に指摘する。マーティンは日常的にどんな家族でも抱え得る崩壊の危機を表す存在なのだと思います。そして家族の危機は今後も当然訪れるし、ずっと向き合っていかなければならないものなわけです。

作中にも出てた『イピゲネイアの悲劇』についてはwiki読んだだけなので詳しくはわかりませんが、タイトルの意味はきっとここに関係してるのでしょうね。マーティンと家族や本作のテーマ、結末を考えると納得なタイトルだと思います。まあ、実際のところ何を描いたんかはわかりませんが(笑)

「マーティン=ポテト」に血を思わせるケチャップをぶっ掛けて、お前なんて大嫌いだと言わんばかりに最後ではなく「一番最初に」食らいつくシーンとかセンスあり過ぎだし、向き合いつつも屈しない姿勢が凄く良かった。パスタの食べ方で家族の希薄さや脆弱性、そして所詮は他人と何ら変わらないことを伝えるなんてのも面白いし、この監督凄いですね。今後も注目して行きたいし、過去作も見てみたいと思いました。
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