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ナラタージュのemilyのレビュー・感想・評価

ナラタージュ(2017年製作の映画)
3.8
 大学二年の春、泉の元に高校時代の演劇部の顧問だった葉山から電話があり、卒業公演に参加してほしいと言われ手伝う事になる。葉山は高校時代クラスになじめなかった泉を助けてくれ、恋に落ちるもなんとか忘れようとしてきた相手だった。再会することで心もまた動き始め、そこに演劇で出会った小野からも気持ちを打ち明けられ・・

 懐中時計から過去の回想へ。高校時代と大学2年の春と3つの時間軸の中で、ハイトーンの色彩と夜と雨を多様した暗い色彩の中、恋愛における繊細な心情を、音楽と自然の音の中で詩的に描く。名作がそれぞれの心情に寄り添い、行間を波の音や、風の音、雨の音が優しく、時には激しく埋めていく。

 小野との瑞々しいやりとり、先生との回想、触れては離れて、離れてはまた思い出して、頭と体が一致しない、思いと裏腹な行動、優しさに甘え、それでもどうしようもできないもどかしい気持ちをしっとりと綴り、3人の思いをしっかり交差させる。そのたった一瞬の幸せのため、たった1%の幸せのため、辛さと悲しさを敢えて引き取る。それが誰かを愛するという事で、それゆえずるさ、それゆえの歯がゆさ、その一つ一つが痛く、でも一生懸命の愛なのだ。

 そうしてその辛かった一つ一つよりも、幸せだった一瞬が心には強く残っていく。幸せは一瞬だからこそ愛おしくかけがえのないものだ。辛さで埋め尽くされているからこそ、その一瞬の幸せをなによりも”幸せ”だと感じる事ができるのだろう。情けなくてみっともなくて、でももっとも人間らしく、もっとも”生きてる”姿である。
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