140字プロレス鶴見辰吾ジラ

22年目の告白 私が殺人犯ですの140字プロレス鶴見辰吾ジラのレビュー・感想・評価

3.9
”ノイズ”

韓国映画「殺人の告白」のリメイクを、「SR サイタマのラッパー」シリーズ、「ジョーカーゲーム」「太陽」を手掛けた入江悠監督がリメイク。正直、韓国版の「殺人の告白」を見たときに、未解決事件という重い題材においてコメディックな軽いタッチから、極上のカーチェイスシーン、そして陰鬱さまでごった煮したエンターテイメント作品として私の目に移り、邦画リメイクにて、邦画キャストや日本という国自体の縛りの中、リメイクはコケると思っていた。しかし昨年「シンゴジラ」が日本でしかできない、撮れない絵で、日本という国の呪縛性を投影したあの感覚に近い作品に仕上がった。そして何よりアニメ的な絵の不気味さから、フィルムや撮影方法の変化による時代設定やスリル性が生みだす目を離せなくなる工夫が凝らされた素晴らしい魅せ方になったと思う。

まず冒頭。この冒頭演出で心臓バクバク。”時効”というキーワードと法改正を逆手に取り、逆算した1995年という”あの”年の表現から始まる。阪神淡路大震災の当時の映像、オウム真理教の地下鉄サリン事件の当時の新聞記事、村山総理の会見映像の中に、家庭用ハンディカメラで写される残虐な絞殺映像。リアルの中に挿入されたフェイクが当時の粗い画質ではめ込まれるため、異質であり現実的に信じさせる納得力を持って目に飛び込んでくる場面に戦慄した。時のジャンプカットもお洒落に決め込みながらノイジーな音楽が90年代のハードコア音楽要素を兼ね備えなおブーストをかけてくるシーンに思わず冒頭の段階で拍手をしたくなったほど嬉しくなってしまった。韓国版の「殺人の告白」とは異なり、アクションシーンを縛られた状態ながら、被害者の物語を1つ、また1つとクローズアップにし、そのクローズアップで顔を映すことも伏線として生きているのでテンポ感、思わせぶり感が少なくて良い。そしてアクションやカーチェイスが縛られた分の補い方も二転三転あるサスペンスのエンターテイメント的な落とし込みとして悪くなく、元の「殺人の告白」を見ていたとしても、変更点を理解し、さらに事件の真相が判明したそのあとにも気味の悪さをPOV視点や監視カメラ映像など多様な視点と切り替えにより緊張感がつきまとうのは良かった。また元を見ていない人に対してはキャスティングの妙とノイズ表現がカチりとハマっている。主演が藤原竜也と伊藤英明という段階で大味な映画という印象であり、さらに「殺人犯の告白本」という外連味を託すのが藤原竜也であっては、そこから巻き起こるセンセーションも含め「デスノート」の二番煎じ感が否めなさすぎる。しかしだからこその「デスノート」的なPOPさのない歪でお洒落な冒頭映像と事件の真相が判明するときの破壊性は大きかったと思う。キャスト陣営も大きな演技をしがちだが、藤原竜也の泣き叫ぶような演技はギリギリ抑制されており、役者の演技自体がBGMのノイズと相まってライン設定されていたと思う。夏帆だけが浮いていたオーバーアクトでバランスが悪かった気がした。そして何より、松本まりかのあの甘ったるい声が大人びた状態で提供されたことに声フェチの私は感謝しかない。クライマックスに突入しラストに向けて駆け出すときに肩透かし気味な部分がありリスタートをきれる状態にはあるのだが、助長的な最終決戦となってしまった感覚はあり、そこに添えられているPOV視点や監視カメラ視点というホラー映画的不気味さや「ゴーンガール」のワンシーンのような不可解さの工夫で乗り切ったという印象は強かった。ここでカメラマン役に宇野さんであったこともニヤリな部分。とにかく元の「殺人の告白」を楽しんでしまった身としては不安な要素も多かったが、そこをアニメーション的な不気味さや多視点的、フィルムチェンジ演出の妙から、素晴らしい邦画サスペンスのエンターテイメント味付けを生み出せたと思う。

嗚呼、松本まりかが可愛かった~