まりぃくりすてぃ

充たされた生活のまりぃくりすてぃのレビュー・感想・評価

充たされた生活(1962年製作の映画)
3.9
有馬稲子ファンか羽仁進監督のリスペクターじゃなければ、この重っ苦しい映画はキツイだろうなと思った。私は有馬物なら全部イケる口だ。
どんなカビ臭い凡作でも彼女がスカーフ巻けばその映画観た私(たち?)の目的は二、三割果たせちゃう。ましてや、これは(“新々安保体制”ともいえる自発的対米隷従の全体主義まっしぐら政権の今となれば)歴史的意義ありすぎの、羽仁さんお得意のドキュメンタリー風味挿入60s渾身社会派作品。
スカーフサービスはまあおいて、あの時代の「曇天気分」「詰めの甘さ」「翻弄されつつも泳ぎきろうとする気高さ」を人形としてじゃなく流動的な一人間・一女性としてヌメヌメと表現しきった有馬さんの、皮膚呼吸が常にスクリーンから迫ってくる感じ。期待通りに、心配通りに、覚悟した通りに、重い。
別れる夫(アイ・ジョージさん)との微妙なやりとりは、リアルじゃないけど“ファンタジックなリアリティー”があってちょっと安心できた。
落ち着き先となる劇作家役の原田甲子郎さんは、今に至る邦画の軟派オトナ男優の典型といえる風貌。私的には△。
一瞬か二瞬登場したデップリな猫は、イイ人(田村高廣さん)よりもスター的美人(大場ゆかりさん)よりもさらに甘い目薬。
音楽は、もうちょっと意欲的にかぶせられなかったか? 本家ヌーヴェルバーグの諸作品みたくモダンジャズがひっきりなしにタンタンタンタン打って吼えたりしていれば、退屈度が減ると思うんだけど。
主演女優か監督で選んだ人以外にとってはやっぱり……屈(かが)んだままの映画かもね。

岸政権下の安保騒乱の評価については、孫崎享ぐらいは当然のタシナミとして読んでる人とじゃないとまともには語り合えないので、ここには長々書かないけど、一言だけ。────全学連の人の「今後10年間の日本を左右する重大局面」というセリフは、悲しい見当違いだったね。100年後まで続く禍根(密約つきで属国扱い完全固定)が残ってる。