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充たされた生活の3104のレビュー・感想・評価

充たされた生活(1962年製作の映画)
3.9
原作ありのフィクションだが、そこかしこに伺えるドキュメンタリータッチの演出が独特の質感を醸し出している。

一見〝充たされた生活〟に見えるが、拭いようのない虚しさを抱える主人公・朝倉じゅん子を演じるは自ら映画化権を獲得した有馬稲子。
前半は彼女の〝充たされない生活〟が描かれる。ここでのじゅん子(自らを名前で呼ぶ口調が妙になまめかしい)の彷徨、焦燥のようなものがとてもいい。有馬稲子は不幸な表情のほうが魅力的だ。スタイリッシュな服装やなぜか水着姿と、様々な彼女が観られるのもいい。

後半は60年安保闘争という「時代の風」が大きく採り入れられ、物語の質感や方向性も変化していく。これについては賛否両論かもしれない。それにつれ劇団内での描写が増え、ついにはじゅん子はそこで〝充たされた生活〟を手に入れる。彼女にとっては望んだ道だが、映画的にはどこか盛り上がりに欠ける帰着の仕方である。

聞けばこの映画、少なくとも30分はカットされたらしい。それを聞いたからそう思うのかもしれないが、明らかに説明不足、描写不足の部分があるように感じた。102分という上映時間は適切なのかもしれないが、少し残念なところでもある。


余談:劇中の60年安保の自然成立日が6月19日。この映画を劇場で観たのがその55年後の6月19日。たまたまである。
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