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サバイバルファミリーのymdのレビュー・感想・評価

サバイバルファミリー(2017年製作の映画)
3.7
日本コメディ映画界屈指の才能である矢口史靖監督作品。

笑えるコメディには違いないのだけど、どこか背筋がひんやりするような風刺性を持つ薄気味の悪い映画でもある。

いわゆるディザスターモノともいえる今作は、コロナ禍を生きる今において期せずしてさらに鈍い光を放っている。
今の日本社会と直接的な近似はないものの、緊急事態宣言下の頃に見舞われたマスク不足・トイレットペーパー不足などの混乱はこの映画内のライフライン停止下の状況と重なるところが大きいように思う。

電気がなくなったことで襲い来る危機や困難の数々にどのくらいのリアリティがあるかどうかはさておき、当たり前に享受してきたインフラの機能が停止したときに露呈する人間の無力さ・愚かさが痛々しいし、翻って緊急事態宣言直後に自分が直面した状況とも重なり合わせてみると、生きるために懸命な家族の様子がだんだん滑稽なものに見えなくなっていってしまう。それがコメディとして良いか悪いかは分からないけど。

だからこそ、小日向文世が演じた父親が情けないと家族に罵られる姿が悲痛すぎて胸が痛くなってしまった。

社会が正常な時には地味ながらも2人の子供を育てる立派な親だったのが、未曾有の事態に陥ったときに右往左往して何もできなくなってしまう、という事実はもう残酷すぎるし、その描写を容赦なく入れてくるあたり、矢口監督は『ウォーターボーイズ』とか『ハッピーフライト』とかの軽快な娯楽映画として今作を作っていないことが明白なのだとも思うわけで。

貯蓄することをが必ずしも是だとは思わないし、情報に踊らされて不必要な買い溜めに走るようにはなりたくはないけれど、何かあったときに最低限人間の尊厳を保てるような準備はしておかなきゃな。
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