YasujiOshiba

サバイバルファミリーのYasujiOshibaのレビュー・感想・評価

サバイバルファミリー(2017年製作の映画)
-
矢口さんの映画がよいのは、きちんと取材しているところ。取材して掘り起こしてきたリアリティを、フィクションとしての娯楽作品にまとめあげるところがよい。

僕が見たのは、男子シンクロを題材にした『ウォーターボーイズ』、吹奏楽部とジャズの『スウィング・ガールズ』、航空業界の『ハッピーフライト』に、林業の『Wood job』ぐらいだけど、どれもきちんと娯楽作でありながら、へえと思わせるところがよい。

彼が作るのはどこまでもテレビではなく映画。テレビの、たとえばドキュメンタリーの質が落ちているということもあるかもしれないけれど、矢口さんのはちゃんとフィクションで、映画しているところがよい。

だって、この停電映画だって、冒頭の東京の街並みのショットなんて、ゾクゾクさせてくれるじゃないですか。決して気をてらうわけじゃないのだけど、きちんとロケをして、綺麗な写真を撮ってくれるから、少しばかり強引な筋の展開でも、それはそれで楽しめてしまうんだろうな。ほんとショットがちゃんと映画してるんだよね。鹿児島の漁村のシーンなんて、一瞬、ナウシカの風の谷の実写版かと思わせるぐらいハッとさせる出来だったしね。

役者さんたちも、それなりにきっちりと芝居してくれる。小日向文世なんか、こういう役は安心だし、ぼくの大好きな深津絵里は相変わらずうまい。しかもかわいい。とりわけ、ダメお父さんのことを、「お父さんはこういう人なの」と、そのダメぶりを全面肯定しながらの愛の告白なんて、彼女以外の誰が、ここまでかわいくやって、ジーンとさせられるってんだ。

それから朝ドラの若手2人。泉澤祐希くんは、『ひよっこ』(2017年前期)以来でおひさしぶりって感じ。葵わかなは2017年の後期で『わろてんか』の主演だったわな。

さらには『半分、青い』のボクテ(志尊淳)とか、『わろてんか』のキース(大野拓朗)もいたっけ。このふたりの両親を時任三郎と藤原紀香がやるわけだけど、こっちのファミリーはサバイバルがスマートすぎるだろ、とツッコミいれたくなるよね。でも、このスマートすぎるサバイバルファミリーこそ、じつは重要な伏線でもあるわけ。

なにしろ、彼らこそが、ありえない鏡として、ぼくたちが誰もがかかえている無知で危なっかしくて恥ずかしくなってしまうような人間性を、映し出してくれるわけだから。
YasujiOshiba

YasujiOshiba