MASH

サウンド・オブ・メタル ~聞こえるということ~のMASHのレビュー・感想・評価

5.0
最近何かと満点をつけている気がするが、それほど今年の配信作品は傑作が多いということだ。そして、この作品も映画における表現方法を広げた傑作と言える。これは聴覚障がいを描いた作品であり、自分の居場所を見つけようともがく一人の人間を描いた作品でもあるのだ。

障がいを描いた作品は非常に多い。もちろん良い作品も多いが、そのほとんどが外側から見た姿を描いたものだ。張本人たちを描いていたとしても、映画である以上そうなってしまう。だが、『サウンド・オブ・メタル』は観客に実際に体験させるのだ。主人公であるルーバンの耳の状態を実際に音で表現している。単に無音になるわけでなく、微かに聴こえる音や彼の感じる振動まで。それに呼応して、彼が見る景色もまた変わっていく。主人公の姿を見せるだけでなく、主人公と同じ状況を体感させるのだ。

それは技巧的な意味合いだけではない。ルーベンが置かれている状況を体感することで、それと同時に彼の内面にも深く入り込めるからだ。彼の中の怒りや不安、恐怖、孤独を観客も直に感じる。そうなることで、耳が聴こえなくなることにどう対処していくかということではなく、自分のアイデンティティや居場所を失ったときどう向き合っていくのかという普遍的なテーマに変わっていくのだ。

映画は単に何かを映すものではない。誰かの人生を観客に追体験させるものなのだ。そしてそれは自分の人生に強く影響を与えるものだ。それはどんな映画でも変わらない。そして、この作品はそのことを誰よりもよく分かっていると言える。その場で何かを感じて終わりというのではなく、これから人生を生きていく上での助けとなる、そんな映画だ。
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