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サウンド・オブ・メタル ~聞こえるということ~のKKのレビュー・感想・評価

4.3
めっちゃよい.....

アマプラ限定なのがもったいなさすぎる。
2020年も終わる時にとんでもない作品に出会ってしまった。


これはアマプラ勢はぜひ見てほしい!





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以下ネタバレあり





ある日突然聴力を失ったドラマー。音楽で生きている人のそれは、自分が感じるものとは比べ物にならないほどの恐怖だと思う。
ミュージシャンにとって、「音」を失うことは、生きる目的を失うことと同義なのではないか。

耳の不調に気づきながらもルーに相談することなく、いつも通りの演奏をしようとする。ルーベン自身、絶対に認めたくないという思いがあったのだろう。それでも、失われた聴力の影響は、自分が1番よく分かっている。

「聞こえない」

ライブを抜け出したルーベンの告白。それに対するルーの表情。様子のおかしかったルーベンの状況を理解するにはその一言だけで十分だった。

独りで悩み、苦しんでいたルーベンをルーは優しく抱きしめた。自分の気持ちの整理もできていないが、それ以上にルーベンが苦しんでいたことが分かったから。
ここまで打ちのめされたルーベンに対してかけてあげる言葉は何もない。ただ抱きしめる。それだけしか、ルーベンの気持ちを落ち着かせることはできなかった。


この辺のルーベンとルーの表情はなんとも言えない最高の演技だった。苦悩と葛藤。相手のことを想っていてもどうすることもできない苦しみ。それでもお互いに相手のことを想っていることは分かる。

ルーが、ルーベンから離れて自助グループに行かせようとするシーンは必見。
愛している。愛しているからこそ離れなければならない。自分のためを思ってくれていることは分かっていても、見捨てられたように感じてしまう。

2人の「約束」
このシーンは凄かった。


聾唖の生活を学ぶ。
この時のルーベンの感情はどのようなものだったんだろう?

ルーベンの気持ちに変化があったのは、滑り台のシーン。滑り台をから伝わる「音」に救われたのかもしれない。

そこから明らかにルーベンの表情が変わっていった。


ルーの活躍を知って、トレーラーや楽器を売って人工内耳の手術を受けてしまった。
そりゃあ、焦るよなぁ。約束したはずのルーが自分の道を歩き始めてしまったら、自分はもう必要なくなってしまうのかもしれない。
その恐怖は、ルーベンにとって大切な楽器を失うことよりも恐ろしいものだった。


「聾唖はハンデではない。治そうとするものではない」

深すぎる言葉だった。自助グループで暮らす人たちは、難聴を治したくても治せない人達ばかり。子供たちもいる。
そんな彼らに、
「もしもお金があったなら。」
そんな期待を抱かせてしまうことは、時に残酷なことになる。

ルーベンはそれが分かったからこそ、すぐに自助グループから離れたのだろう。それはルーベンにとって楽な選択ではなかった。
だけど、自分を救ってくれた彼らを叶えることのできない希望で苦しませることはできなかった。


治療が完了した後、人工内耳をつけた時のルーベンの表情が忘れられない。ルーベンが想像していた音はもう聞けなかった。
ノイズ混じりの機械音。
もう以前のように音楽をやることはできない。ルーベンにとって受け入れ難い、しかし受け入れることしかできない事実だった。

ルーの家に戻ってからのルーベンの表情はもう凄すぎる。
以前とは違う音。自分がいなくても輝いているルー。以前の2人には戻れないことは、ルーベンが1番よく分かっていた。


「It’s OK」
「俺を救ってくれた。幸せを俺にくれた。
十分だ」


泣けすぎる。



ラストシーンも凄すぎる。
ルーベンが最後に求めたのは静寂だった。
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