コウキ

サウンド・オブ・メタル ~聞こえるということ~のコウキのレビュー・感想・評価

4.5
静寂こそ、心の平穏を得られる場所。

ドラマーのルーベンは、突如難聴になり、ドラムどころか、日常生活まで成り立たなくなってしまう。そんな様子を見た恋人のルーの誘いで、難聴コミュニティで暮らすことになる。これまでとはまるで異世界のような場所で暮らす中で、ルーベンは自分自身を見つめ直していく。そして、ある決断をする。

ルーベンを通して、音が聞こえなくなっていく恐怖を実感し、聴覚を失う追体験ができる。
音で溢れていた世界から、突如音が消える。さらに、完全に消えるのではなく、雑音のような、ノイズに覆われた世界。隣の人たちの会話も聞き取れない。想像することさえ恐ろしい世界だった。

ルーベンを含め、登場人物全員が誰かのためを想って行動していることが印象的だった。だからこそ、ラストのルーベンの選択は心苦しくなった。

本作で体験した静寂はとても心地良く、居心地の良いものだった。
普段は音のない空間にいる事自体ない。音楽を流しながら作業するし、外に出れば車のエンジン音や人々の声で溢れかえっている。そんな日々を過ごしていては気付けない、静寂の暖かさを実感した。

施設長の話が印象的で、時間に追われて急いで生きるのも良いが、立ち止まって自分自身と向き合うことも間違いではないことを教えてくれた。
変化の激しい現代社会では、立ち止まった瞬間置いてけぼりにされ、除け者にされる。そんな慌ただしい日々を過ごす中で、人生の目的ややりたいことが不明確になっていく。そんなときは、静寂に身を置いて、心と向き合うようにしたい。
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