りっく

荒野にてのりっくのレビュー・感想・評価

荒野にて(2017年製作の映画)
4.2
青年が走る姿で幕が開き、足を止めたところで幕を下ろす本作は、主演の青年の力強い歩みが観る者の心を終始揺さぶり続ける過酷なロードムービーだ。

彼が旅路で出会う人々は、そこでしか身動きが取れなくなってしまった、ある種人生の可能性を閉ざしてしまった人々である。だからこそ、彼はそこである程度のライフラインが確保されていても、甘んじることなくその場から静かに立ち去る。ひたすらにどこにいるかも分からない叔母を探して歩みを進める。

そこで印象的なのは、やはり田舎競馬で見切りをつけられたピートという馬との関係性だろう。彼は決してピートに跨ろうとしない。乗馬するのではなく、広大で危険な荒野を共に歩む。それだけで、馬と青年が歩む様だけで、こんなにも感動的なのか。そしてだからこそ、心を通わせる友が初めて自分を置き去りにして走っていく姿に寒気がし、悪夢のような光景を眺めるしか術がない残酷さに、追い討ちをかけるようにこの世の絶望をひしひしと突きつける。

でも彼は歩みを止めない。どんなにボロボロになり、社会の底辺に両足を突っ込んでも、その底なし沼から這い上がろうと必死になる。そしてそんな自分が置かれた環境を呪うことも、卑下することもなく前を向く、その表情の凛々しさ逞しさ神々しさよ。本作はそんな彼の歩みが荒れ果てた荒野に道を造り、そんな荒野に一輪の花が咲き始める微かな希望が感じられるかのような、慎ましい傑作である。
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