半兵衛

銀座の恋人たちの半兵衛のレビュー・感想・評価

銀座の恋人たち(1961年製作の映画)
4.5
人間は結婚がゴールではないし家庭の形は人それぞれだよという現代的なテーマを扱っていることにも驚かされるが、それ以上に銀座に住む二つの家庭とその周辺で起こる多彩な1クールドラマ並の分量はある出来事をたった100分にまとめて淀みなく展開していく千葉泰樹(監督)&井手俊郎(脚本)の名人芸に感激。その一方で次々と出てくる豪華な俳優はおろか脇に至る役者までちゃんと見せ場を作る細かい目配せまでする手腕の凄さよ。

映画に登場する主要な登場人物はみな良いことばかりは起きないしなかにはエグいエピソードもあるけど、そんな辛いことがあっても前を見つめ目の前にある小さな幸せを大事にして生きていく姿勢に胸が熱くなるし、仲の良かった親友三人娘が様々な出来事を経ても関係が変わらずにお互いに起きたことを銀杏を食べながら報告し合う女子会を開くほっこりとした姿に心が温まる。

三人娘の一人で実質的な主人公でもある原知佐子は最初嫉妬深く夫の宝田明に女性が近づくたびにキャーキャー騒ぐので好きにはなれなかったけど、いろいろな事件を経て人間の愛とは距離感とは何かということを悟り自立した女性になっていくのには知人の成長を見ている微笑ましい気分に。厳格な家に嫁いだものの夫の浮気に耐えられず離婚し、前向きな性格になり自活していく草笛光子も最高。あとホームレスの小川安三や、ほんのちょっとだけ出演して場をかっさらっていく加東大介、謎のある大人の女性を演じる島崎雪子(神代辰巳監督の最初の奥さん)もgood。

最悪な出来事が起こり傷心状態の団令子にもたらされる小さな幸福で締め括られるエンディングの素晴らしさよ、そしてそんな幸せを運ぶ大食い加山雄三の明朗さにほっこり。

何より渋い有島一郎が営む喫茶店に行ってみたいし、団令子がいる小料理屋にも行ってみたい。そう思えるだけでこの映画は傑作。
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