くりふ

フェリシーと夢のトウシューズのくりふのレビュー・感想・評価

3.0
【オペラ座どん底時代に咲いた花】

絵柄と邦題から、女児&ご家族向けだろうと思ったが、以下、興味が湧いたので劇場へ。

①珍しき仏製フルCGアニメ
②バレエ振付がオレリー・デュポン
③舞台を19世紀末とした謎

…エル・ファニングの声でみたかったが、考えたらフランス映画なのに英語ってことだから、吹替え版でいいやと思いそうした。字幕版、時間合わないし。

結果、全体では、体験としては意外や充実の時間を!…が、作品評価としては手放しでは褒められないな…と思いました。

①珍しき仏製フルCGアニメ…の件

長編でのそれをみるのは初めてかも。ゴーモンが3000万ドルかけ制作したそれなりの規模作で、確かに丁寧な仕上り。

が、意図的か技術不足か、ディズニー(ピクサー)と比べると、動きの振幅・細やかさが今ひとつ。キャラを徹底して愛らしくすることもしていないが、この辺は個性ということでしょうか。

②バレエ振付がオレリー・デュポン…の件

素人少女が最低限の力をつけるまでの話だから、現オペラ座芸術監督がわざわざ出張る必要が?と思ったが、そこが売りか(笑)。

後でパンフ読んで驚いたが、ダンスはオレリー本人が実際に踊ってモーション・キャプチャーを試したそう。…でも使えなかったって(笑)。所詮キャプチャー技術ではダンスの要はコピーできない、と逆に感心しましたが。コレ、作中でのヒロインとライバルとの差異にも通じますね。

実際の振付作業は、オレリーが全て踊ってみて、夫のジェレミー・ベランガールがそれを撮影し、カメラを通して映えるダンスを調整したそうだ。ライバル少女のダンスはレオノール・ボラックが担当とのこと。…メッチャ豪華やん!ぜひメイキングが見たいです。

しかし実画面への成果としては、所々生々しさを感じたものの…やっぱりCGの力はまだまだ弱いなと思う。とにかく軽くて、ダンスの生命力を感じない。ダンス通の目なら、細部で発見あるのでしょうか。

もう少し時代を遡り、ロマンティック・バレエを描けば嵌った気が…。ところでダンス・バトルはダンスじゃなくサーカスだったね。

とはいえフェリシーちゃん、少なくとも『ブラック・スワン』のナタリー・ポートマンよりは断然、巧かったよ!(笑)

③舞台を19世紀末とした謎…の件

これが一番不思議で…この時代、パリ・オペラ座は幾つかの事情でどん底とも言える凋落期の筈。女性ダンサーで売りたいが自国スター不在、イタリアから呼んでいた。そしてバレリーナは貧困層が目指すもので、パトロン付かないとやっていけない。

オペラ座はバレリーナと上客(ブルジョア)を会わせる場を設け、ズバリ売春斡旋をしていた。…という今では驚きの野生時代。

本作、オペラ座観客の顔は一切出さないんですよね。愛人候補を物色する成金オヤジばかりだから?なんて思ったり。まあ、その一方で客席にはドガなどもいたわけですが。

映画から真意はわからなかったが、孤児院出身、バレエ教育を受けていない11歳少女を、速攻オペラ座に出す最低限のリアリティとして、この時代を選んだ気はする。夢実現のハードルを下げたわけだ。

現実は厳しかった筈だが、どん底時代ならあり得るかも…と観客を諦めさせる説得力は感じる(笑)。これが現代の設定だと話にならないのでは。

でもそうなると、ライバル母子の存在に疑問。金持ちなのに、何故娘をバレリーナにせんと躍起になるのか。何らかの理由で今後、貧乏化することを恐れているのか…。ブルジョアの夫が急死して、実は遺産少ないとわかったとか?

あの母ちゃん、『ラプンツェル』魔女母似の憎まれ役だったが、裏の苦労を察して同情しちゃった。学長との関係が、パトロン探しの前哨戦に思えます。

時代考証のアバウトさなど、ディテールにつき言いたいことまだありますが、長くなったのでこの辺で。

フランスでは、アニメ映画の観客は殆ど子供だそうで、本作も子供には気持ちよい仕上りになっていると思います。まだ幼い女の子が、フェリシーのように頑張ろう!と元気が出るならそれもいいと思う。

が、上で色々書きましたが、本作でいう夢の実現は、気持ちよく見えるところしか描いておらず、オトナ視点からそれは欺瞞に思えます。だから手放しでおススメ!と言う気にはなれません。

注意書きの要るフレンチ・ドリーム映画、といったところでしょうかね。

<2017.8.16記>
くりふ

くりふ