【オペラ座どん底時代に咲いた花】
絵柄と邦題から、女児&ご家族向けだろうと思ったが、以下、興味が湧いたので劇場へ。
①珍しき仏製フルCGアニメ
②バレエ振付がオレリー・デュポン
③舞台を19世紀末とした謎
…エル・ファニングの声でみたかったが、考えたらフランス映画なのに英語ってことだから、吹替え版でいいやと思いそうした。字幕版、時間合わないし。
結果、全体では、体験としては意外や充実の時間を!…が、作品評価としては手放しでは褒められないな…と思いました。
①珍しき仏製フルCGアニメ…の件
長編でのそれをみるのは初めてかも。ゴーモンが3000万ドルかけ制作したそれなりの規模作で、確かに丁寧な仕上り。
が、意図的か技術不足か、ディズニー(ピクサー)と比べると、動きの振幅・細やかさが今ひとつ。キャラを徹底して愛らしくすることもしていないが、この辺は個性ということでしょうか。
②バレエ振付がオレリー・デュポン…の件
素人少女が最低限の力をつけるまでの話だから、現オペラ座芸術監督がわざわざ出張る必要が?と思ったが、そこが売りか(笑)。
後でパンフ読んで驚いたが、ダンスはオレリー本人が実際に踊ってモーション・キャプチャーを試したそう。…でも使えなかったって(笑)。所詮キャプチャー技術ではダンスの要はコピーできない、と逆に感心しましたが。コレ、作中でのヒロインとライバルとの差異にも通じますね。
実際の振付作業は、オレリーが全て踊ってみて、夫のジェレミー・ベランガールがそれを撮影し、カメラを通して映えるダンスを調整したそうだ。ライバル少女のダンスはレオノール・ボラックが担当とのこと。…メッチャ豪華やん!ぜひメイキングが見たいです。
しかし実画面への成果としては、所々生々しさを感じたものの…やっぱりCGの力はまだまだ弱いなと思う。とにかく軽くて、ダンスの生命力を感じない。ダンス通の目なら、細部で発見あるのでしょうか。
もう少し時代を遡り、ロマンティック・バレエを描けば嵌った気が…。ところでダンス・バトルはダンスじゃなくサーカスだったね。
とはいえフェリシーちゃん、少なくとも『ブラック・スワン』のナタリー・ポートマンよりは断然、巧かったよ!(笑)
③舞台を19世紀末とした謎…の件
これが一番不思議で…この時代、パリ・オペラ座は幾つかの事情でどん底とも言える凋落期の筈。女性ダンサーで売りたいが自国スター不在、イタリアから呼んでいた。そしてバレリーナは貧困層が目指すもので、パトロン付かないとやっていけない。
オペラ座はバレリーナと上客(ブルジョア)を会わせる場を設け、ズバリ売春斡旋をしていた。…という今では驚きの野生時代。
本作、オペラ座観客の顔は一切出さないんですよね。愛人候補を物色する成金オヤジばかりだから?なんて思ったり。まあ、その一方で客席にはドガなどもいたわけですが。
映画から真意はわからなかったが、孤児院出身、バレエ教育を受けていない11歳少女を、速攻オペラ座に出す最低限のリアリティとして、この時代を選んだ気はする。夢実現のハードルを下げたわけだ。
現実は厳しかった筈だが、どん底時代ならあり得るかも…と観客を諦めさせる説得力は感じる(笑)。これが現代の設定だと話にならないのでは。
でもそうなると、ライバル母子の存在に疑問。金持ちなのに、何故娘をバレリーナにせんと躍起になるのか。何らかの理由で今後、貧乏化することを恐れているのか…。ブルジョアの夫が急死して、実は遺産少ないとわかったとか?
あの母ちゃん、『ラプンツェル』魔女母似の憎まれ役だったが、裏の苦労を察して同情しちゃった。学長との関係が、パトロン探しの前哨戦に思えます。
時代考証のアバウトさなど、ディテールにつき言いたいことまだありますが、長くなったのでこの辺で。
フランスでは、アニメ映画の観客は殆ど子供だそうで、本作も子供には気持ちよい仕上りになっていると思います。まだ幼い女の子が、フェリシーのように頑張ろう!と元気が出るならそれもいいと思う。
が、上で色々書きましたが、本作でいう夢の実現は、気持ちよく見えるところしか描いておらず、オトナ視点からそれは欺瞞に思えます。だから手放しでおススメ!と言う気にはなれません。
注意書きの要るフレンチ・ドリーム映画、といったところでしょうかね。
<2017.8.16記>