mimitakoyaki

あゝ、荒野 前篇のmimitakoyakiのレビュー・感想・評価

あゝ、荒野 前篇(2017年製作の映画)
4.2
久々の邦画です。
なんだかとてもパワフルで泥臭い作品でした。

2021年の新宿という設定ですが、未来感よりもむしろ時代に取り残されたような昭和の感じの方が強く、出てくる人物がこぞって家庭に恵まれず、親に捨てられたり虐待されたり、貧困の問題もあり、心に大きな傷や孤独を抱えています。

そんな孤独な新次と建二が同じ時にボクシングと出会ったことで、打ち込めるものができて更生したり、強くなったり、自分をちゃんと認めてくれる仲間とも出会い、生まれ変わろうとする、2人のその過程や関係がよく描かれていました。

2人ともとても過酷で辛い境遇で育ってきたのですが、建二が父親に抑圧や暴力を受け、支配されながらも、父親を自分が養うしかないので離れることもできず、また父親からの虐待のせいか吃音がひどく人とも上手く関われないし、臆病で自信がなくて、散髪屋で黙ってバリカンを握るだけの毎日だったのが、新次は自分を兄貴と呼び、バカにしたり見下したりせずに慕ってくれたり、対等に接してくれ、自分をちゃんと認めてくれる初めての存在で、新次と一緒にボクシングができ、一緒に頑張り、生活を共にできることの喜びがすごく伝わってきて、わたしは特に建二にとても感情移入しました。

この作品、新次と建二に焦点を当てながらも、群像劇っぽくその周辺の出来事や人物にも枝葉が分かれていき、自殺防止サークルのエピソードは原作ではどうなってるのか分かりませんが、ちょっと現実味がなくて取ってつけた印象を持ちました。

ですが、2021年の日本は、奨学金免除のために自衛隊に入るか介護職に就くという社会奉仕プログラムという名の経済的徴兵制を政府が通そうとして、学生を中心としたデモが起きてたり、3.11の震災や原発事故もまだまだ影響を引きずってるし、より深刻化する高齢化社会や、自衛隊の紛争地域での危険な任務やパワハラ、帰還後のPTSDの問題など、そこはかなり現実味のある様々な問題に覆われていて、なかなかのディストピア感として描かれているんですね。
そういう暗くて息苦しい時代、希望が持ちにくい時代ということで、自殺防止サークルの話も出てきているのかと思いました。

2時間半の長尺ですが、とにかくエネルギーに満ちていて、新次と建二がそんな時代の中で必死で生きていこうとする力強さを感じたし、ボクシングのシーンも彼らの過去にもずっと引きつけられました。

菅田将暉ももちろん魅力的ですが、ヤン・イクチュンが「息もできない」のシバラマ全開のヤクザな借金取りとは正反対の心に闇を抱え苦しみながら孤独に生きてきた建二を見事に演じていて、その巧さに心を奪われました。

ただ、生々しく激しいセックスシーンが多く、R15指定があったことも気付かず中学生の息子と見てしまって、非常にバツが悪かったです…。

3
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