さわら

バンコクナイツのさわらのレビュー・感想・評価

バンコクナイツ(2016年製作の映画)
5.0
奇しくも『ラ・ラ・ランド』と同時期に公開。ハリウッドが自分の可能性という内向きなの“夢”の物語であるならば、空族は外に目が向けられていた。搾取・情・支配・夢・愛。思えば『国道20号線』『サウダーヂ』は、どうしてもままならない、ここ(今)からの逃避だった。本作は逃避した先からの話。でも実は外に目を向けることがいかに内に目を向けることであるか、それを改めて痛感させられた。

“行って帰ってくる”だけというマッドマックス的展開をとりつつも豊穣な時間と充実感を感じるのは、変わりゆく街並みや自然、なによりイサーン地方の音楽なのだろう。そもそも歌は嘆きだと言われるけど、事実イサーン音楽には深く傷つき抗えなかった、戦争と植民地時代の苦しさがある。
途中のモーラムのシーンが最高&感動(パンフによると即興1テイクとのこと!!)。またバンビエン、戦場の傷跡残る土地に響くケーンとヒップホップ。「ここは昔アメリカにズタズタにされた。だが全ては壊すことはできない。ここは変わらないよ」という言葉に込められた力強さにこれまた感動。すごいぜ、アジア。

戦争・娼婦・植民地・覚醒剤と重くなりがちなテーマなんだけど、そうはさせない。空族映画の醍醐味でもある、ふつうの会話の妙。今回は川瀬陽太さん演じる金ちゃんがほんとクソだし、でもいい具合にガス抜きとして機能していた。伊藤仁さんも今回も最高でした。イサーン地方の人の字幕が甲州弁なのも最高。

たしかに初見ではキツいとこもある。しかし小生、山梨・桜座での先行上映と今回、あとパンフでようやくじわじわと良さが広がってきたところだ。今またアイツらに会いたくて仕方ない。
もちろん『ラ・ラ・ランド』もいい。けども『バンコクナイツ』も大音楽映画で、ここではない桃源郷を夢見るロマンティック映画だ(パタヤのシーンは涙腺崩壊)。しかも国産!ハリウッドの出来映えを口惜しく思うことはない!日本×タイでこんなすげぇもん作れんだ!それだけでも涙がとまらんよ!!大大大傑作です!!