MasaichiYaguchi

バンコクナイツのMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

バンコクナイツ(2016年製作の映画)
3.7
「娼婦・楽園・植民地」をテーマにした映像制作集団・空族の本作では、タニヤ通りの人気タイ人娼婦ラックと元自衛隊隊員で風来坊のオザワとの“桃源郷”を取り戻す為の旅が、ベトナム戦争の傷痕を交えながらエキゾチックに展開していく。
私は本作に登場するバンコクにもラオスにも行ったことはないが、本作を観ていると、登場する男たちが必ずと言っていいほど嘯く「男の楽園」の背後にある“闇”というか“迷宮”の存在を感じ取ってしまう。
映画の主な舞台となっているバンコクの世界有数の繁華街は、元々ベトナム戦争における兵士の休息と娯楽を与えるロジスティックス(兵站地)を担っていた。
それが今や日本のビジネス戦士のセックスとドラッグのロジスティックスに様変わりしていて、映画には札びらで女を靡かせる日本のオッサンたちが多数登場する。
だが、彼らは或る意味“必要悪”であって、ラックをはじめとしたタニヤ嬢やその家族をタイのアンダーグランドの経済を支えている。
ラックは腹違いの弟ジミーや妹をはじめとした家族を支える大黒柱として“夜の蝶”をしている訳だが、5年振りに“昔の男”オザワと偶然に再会したことにより、自分を見直すような故郷への“インナートリップ”に彼と旅立つ。
彼女の故郷はタイの東北地方、ラオスとの国境の町ノンカーイなのだが、バンコクとはまるで違って、長閑で少し日本の田舎を想起させる。
オザワはその後、本来の目的であるラオスへ向かうのだが…
果たして主人公の2人は逃避行の旅の果てに“桃源郷”を見出だすことが出来るのか?
ラストに漂うシニカルさ、そしてそれに拮抗するような女性たちのバイタリティーが異国情緒と共に心に残ります。