けんぼー

ガラスの城の約束のけんぼーのレビュー・感想・評価

ガラスの城の約束(2017年製作の映画)
3.8
2021年鑑賞115本目。
どんな親でも親は親。逃れられない呪縛でもあり、一生の宝物。

『シャン・チー』のデスティン・ダニエル・クレットン監督作品。
これまで『ヒップスター』『ショート・ターム』と鑑賞してきて、段々とデスティン・ダニエル・クレットン監督作品の特徴、共通点が見えてきた。

本作は「ニューヨーク・マガジン」のコラムニストである「ジャネット」という女性の実話。
前作『ショート・ターム』で主演を務め、絶賛された「ブリー・ラーソン」が本作でも主役のジャネットを好演してます。
もはやデスティン・ダニエル・クレットン作品では欠かせない存在になってますね。

本作もやはりデスティン監督らしい「親子」「家族」の物語。
ジャネットたち仲の良い4人兄弟は『ヒップスター』の主人公兄弟を彷彿とさせるし、自由すぎて段々とすれ違っていく父親とジャネットの関係性もそう。『ショート・ターム』にも共通点があります。

また、ジャネットの父親「レックス」役の「ウディ・アレン」がハマり役でした。
ユーモアがあって、力強くて、豪快で、とても良い父親っぽいんだけど、でも闇を抱えている。仕事は続かないし、お酒をやめられない。レックスはいつか家族で「ガラスの家」に住むことを夢見て、ずっと設計図を描き続けているんですけど、大人になったジャネットたち兄弟はそんな父親に愛想を尽かして内緒でお金を貯めて順番に家を出ていくんですよね。でも、レックスたち両親はそれでも子供達の近くに住むためについてくるんです。
まさに「親離れ」の話でもあり「子離れ」の話でもある。

レックスたちの子供を愛する気持ちは本物だし、ジャネットたちも両親の考え方に疑問を持ちながらもやはり親は親、というか、どこかでほっとけない気持ちがある。それは幼い頃から受け取った「愛」の記憶があるからなんですよね。レックスたちもジャネットたちも愛し合ってはいるんです。でも、このままではいけないという考えも間違ってはいない。愛し合っているからこそ、自分の人生から排除できない難しさ。

家から出て、自立して、婚約者もいて、完全に「親離れ」したように思えたジャネットですけど、いざ本当に両親と一生の別れになるかもしれないと思った時、走り出す。この「走る」というのもデスティン監督作品で印象的に登場するシーンです。『ヒップスター』の主人公が自転車で走る姿と、兄弟が乗った車と並走して走るシーン。『ショート・ターム』の主人公がドン底に落ちた時に自転車で夜道を走るシーンなど。

愛すべき親だけど、一人の人間としては客観的に見るとどうかと思う部分もある。でも愛している。でもどうかと思う。でも愛している。。。。。
そんなどうしようもない葛藤がとても共感できるし、最後のジャネットの行動には泣かされました。

家族、親子の間にある見えないけど確かにそこに流れている愛情を描き出すデスティン・ダニエル・クレットン監督。
『シャン・チー』はMCUヒーローの中でも複雑な親子関係を持つキャラクターなので、その複雑さの中にある愛情を描く、という意味で適任だったのかもしれません。

「呪縛」であり「宝物」でもあるという「親」の存在と、その間で揺れ動く子供達。
「家族」のライトサイドとダークサイドを、実力確かなキャストと監督がエモーショナルに描いた作品です。

2021/9/11鑑賞