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禅と骨のpanpieのレビュー・感想・評価

禅と骨(2016年製作の映画)
3.8
インパクトあるポスターでそれを見た途端釘付けになった。
あの「ヨコハマメリー」の中村高寛監督の11年振りの新作だそうだ。
一日一回一週間しか上映されずたまたま行けそうな日は雪が降りしきっていた。
でも強烈に観たくて何かに引っ張られるようにして観に行く事にした。

とても不思議な映画だった。
ヘンリ・ミトワ。
アメリカ人の父と芸者だった日本人の母の間に1918年横浜に生まれる。
ハーフでありながら54歳の時京都の天龍寺の禅僧になる。
家系図を調べ上げ「未来に興味はない。僕は過去にしか興味を持てない。」と言いきる。
お坊さん仲間からは型破りではあるがある意味仙人のような人と言われていた。
そして童謡「赤い靴」を映画化したいという夢を持っていた。
ヘンリ・ミトワ。
貴方は何者?

ミトワという名前に日本人の名字にしては変だし普通のアメリカ人でも聞きなれない名前なので調べてみたら父親はドイツ系アメリカ人だった。
今でこそハーフだともてはやされるけど戦争の時代には日本ではスパイ扱いされ父に会いたくて渡ったアメリカでは日系人の強制収容所に入れられなかなか市民権を得られなかった不遇の過去を持つ。
強制収容所でサチコさんと出会い結婚、3人の子供に恵まれる。
戦後単身帰国して茶道・陶芸を学び著書も何冊か出版しマルチな才能を発揮、家族をアメリカから日本に呼び寄せその後僧侶となる。

アメリカに渡る以前をウェンツ瑛士がヘンリ役、母親に余貴美子、職場の上司に佐野史郎、永瀬正敏などが演じドラマ仕立てにしている。
ウェンツ瑛士が意外にもヘンリ役を熱演していてあのハーフ顔がぴったりだった。
この辺りから変わったドキュメンタリー映画だなという感想。
でも悪くなかった。

その後ヘンリの兄、妻、娘二人も出演したが家族とはあまりうまくいってない様子が見て取れる。
特に末娘の静さんが酔った勢いで思いっきりヘンリの頰を張るシーンがあり目を見張った。
彼女は随所で日本になんか来たくなかったのに無理矢理連れた来られたらしい事を口にする。
静さんはとても心を病んでいる様に見えた。

体調を崩して入院するが病名などは伏せられており退院してから撮影を拒否したり言動がおかしくなった。
明らかに顔色も悪く具合が悪そうであんなに饒舌だったお喋りを封印してしまう。
その後93歳で亡くなる。
退院後から作品の空気感がガラッと変わった印象。
思うに監督は中盤までは「ヨコハマメリー」の様な作品にするつもりだったのではないか。
ヘンリのプライドだったのか死期が迫っている事を悟ったからなのか突然非協力的になりかなり撮影は困難な状況だったろう。
でもそこもカメラは回っておりヘンリの意固地になっている様子も描かれていた。
まるで二重人格の様。
39年も僧侶をやっていても死期を悟るとあるいは病に伏すと人は変わるのかもしれない。

亡くなってからお葬式、納骨まで撮影し仏壇に置いてあった父・祖父・叔父等の親族の遺灰を一緒に納骨するシーンは興味深かった。
長女の京子さんは自分が生まれたアメリカの強制収容所跡地や昔住んでいた家を探してアメリカ在住のヘンリの兄と共に訪れるシーンも興味深かった。
何度も転居を繰り返していたそうだ。

ヘンリが生前から撮りたかった「赤い靴」の短編アニメーションが出来てヘンリが亡くなってから家族が試写に来て観ているシーンがある。
何故「赤い靴」の童謡に魅せられたのかその辺りがあまり丁寧に描かれてなかった様に思う。
アメリカ人と日本人の二つの国を故郷に持つヘンリ・ミトワが日本人よりももっと純粋に日本人として日本の文化、宗教に興味を持ち極めたかったのか。
〝異人さんに連れられて行っちゃった〟女の子に〝連れられて〟ではないが自己投影したのだろうか。


プロデューサーに林海象とあった。
私がまだ若かった頃林海象の監督一作目の「夢見るように眠りたい」というモノクロサイレント映画観てえらくハマった。
その後永瀬正敏主演の「私立探偵 濱マイク」も観たが私の中で「夢見るように眠りたい」は存在が大きくて今作を見ようと決めたのも「ヨコハマメリー」が素晴らしかったのは勿論だが林海象がプロデュースしている事は大きい。
その時に出演した佐野史郎だったり「濱マイク」で主演だった永瀬正敏は林海象がプロデュースしていたからこその友情出演だったのかもしれない。
ウェンツ瑛士が出ていたドラマパートは林海象の力が大きかったのかもしれない。
機会があればまた観たい。

新しい試みも面白く伝わったがヘンリ・ミトワの半生を描いた普通のドキュメンタリーを正直観てみたかった。
戦中戦後の動乱の時代に二つの故郷を持つヘンリ・ミトワの生き難かった人生を彼の生の声で聞きたかった。
面白かったが奇をてらってごった煮風な作風は前作を超えなかった。


私がフィルマを始めてから一年が経ちました。
やっと一年されどあっという間の濃い映画漬けの一年でした。
仕事に追われ朝から晩ご飯を作る生活を送り続けてきましたが娘の小さい頃一時期映画から離れて生活している時期もありました。
そのブランクを埋める様に今一生懸命に映画を観て体に吸収しているところです。
人生経験はまだまだですが映画の捉え方が〝面白かったか面白くなかったか〟でしか観られなかった若かった頃よりは少しは視野も広がり単に歳をとっただけなのかもしれませんが共感できなくとも大分受け止められる様になってきたと思います。
1年間お付き合いしてくださりフォローいただいている方には本当に感謝の気持ちでいっぱいです。
本当にありがとうございました。
そしてこれからもよろしくお願いします。m(_ _)m
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