Inagaquilala

ちょっと今から仕事やめてくるのInagaquilalaのレビュー・感想・評価

3.4
コメディなのかハートウォームストーリーなのか、はたまたファンタジーなのか、途中まで判別がつきかねる作品だった。原作はライトノベルで、60万部突破のベストセラー(製作者には心強いだろう)だというが、残念ながら未読だ。

内定欲しさに就職を決めたが、入社した会社はかなりのブラック企業で、上司からはこっぴどく無能ぶりを叱責されている主人公・青山隆(工藤阿須加)。連日のハードワークに疲れ果て、駅のホームでバランスを崩し危うく電車に跳ねられそうになってしまう。そこに現れたのが、かつての同級生だという男・ヤマモト(福士蒼汰)。危機一髪のところを彼に救われ、飲みに誘われるが、青山には彼が同級生だという記憶がなかった。

アロハシャツに関西弁、とにかく陽気に振舞うヤマモトと接しているうちに、元気を取り戻してきた青山だったが、ある日、寂し気な表情で霊園行きのバスに乗るところを目撃してしまう。ネットで調べると、ヤマモトは3年前に自殺していたことがわかる。では、あのヤマモトは何者なのか?

ここまでは予告編でも語られている内容だが、一見するとファンタジー作品の様相だ。事実、途中までは、ヤマモトは「幽霊」であるような見せ方をしている。会社でのいじめとハードワークで飛び降り自殺を図ろうとする青山の前に、都合よくヤマモトが現れる。自殺を翻意させようとするヤマモトと青山のやりとりが続くが、ここでもまだファンタジーなのかなと思い込んでいた。

主人公の会社の模様は、かなり戯画化されて描写されていて、鬼のような上司(吉田鋼太郎)の叱責やいじめはまるでマンガだ。いくらなんでもそこまではと思うくらいで、ギャグのようにも思えてくる。かなり現実離れした描写で、上司の様子はまるでコメディの登場人物としか思えない。

物語の終盤で、ほとんどある人物の語りによって、ヤマモトの正体が明らかにされるのだが、このシーン以降はまるでお涙頂戴のハートウォームストーリーになる。この語りによる「種明かし」には、大いに興ざめした。それも突然現れる人物に、その重要な役柄を与えている。前半部分で、若干の伏線は張って欲しかった気がする。

総じて考えれば、原作があるという制約もあったのだろうが、やはりきちんと全体の演出プランは決めておいたほうがよかったかもしれない。中途半端な思わせぶりな描写で、観る者をミスリードするのではなく、ハートウォームストーリーなら、そのようにつくり変えていけばよいだけの話なのだ。不必要に読者をファンタジー方向へ引っ張ったのは、はっきり言って成功してはいない。

むしろこれだけ残業問題やパワーハラスメントが社会問題化している昨今、正面から堂々とこの問題に臨んでいったらどんな作品ができたのだろう。原作があるとはいえ、そのくらいの物語の書き換えは必要だったのではないだろうか。観ていて、ずっと物足りなさを感じていたので、ちょっと苦言を呈してみた。

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