しの

映画ドラえもん のび太の南極カチコチ大冒険のしののレビュー・感想・評価

3.7
異色作。壮大なビジュアル、脚本のギミック、少ない登場人物でシンプルながらも美しいラスト。これ、「ドラえもん」の名を借りた別の何かだ。ちょっと技巧派すぎてドラえもん映画の本質的な部分が薄味だが、大人でもかなり面白い。複数回観たくなる。

ドラえもん映画といえばコレ!みたいな要素をおそらく意図的にパワーアップさせまくっていて楽しい。例えばひみつ道具とか、子供達にとって勉強になる知識とか。

しかし、ドラえもん映画の一番の核と言っても良い、「のび太たちが日常から離れ異世界に赴くが、再び帰ってきたときに何かを持ち帰っている」という柱に関しては、今回はゲストキャラとの別れもかなりアッサリで、スパッと美しく締める方向性。ここがまさに今作の「技巧派」さを象徴していた。

その反面、去年の『新日本誕生』はエンドロールの背景まで惜しみなく使ってその「持ち帰り」を様々な部分で強調しており、また終盤の盛り上がりとテーマの盛り上がりが一致している作りなどもまさに往年のドラえもん映画という感じで本当に「優等生」だった。本作とはかなり対照的な作風と言える。

本作は、観た直後は「すげぇ! これメチャメチャ語れるぞ!」という感触だったし実際語れるのだが、口から出てくるのは「ここが従来のドラえもん映画とは違う」「ここの表現がかなり凝ってる」みたいなメタ視点のものばかりで、肝心の内容については「楽しかった」で終了する。むしろ内容については「惜しい! あと一歩で屈指の名作だったのに」みたいな愚痴が多くなる。しかし、そんな「攻め過ぎてる感」も含めて私は本作が好きだ。

惜しいのは特にブリザーガ関連。今回のボスは結構特殊で、ある意味自然現象である点や、人類誕生の直接原因であることからも、単純に「悪」とは言えない。そこをもう少し掘り下げて欲しかったが、あっさり倒してしまったのが残念。

とはいえ、今年のドラえもん映画にはかなり意義があると思う。というのは

・オリジナルでも十分なクオリティで戦っていけることが示された。
・「ドラえもん映画とはかくあるべし」のような意識から離れ、今後も様々に挑戦した自由な作品が観られる可能性が生まれた。

ということが言えるからだ。これだけで私はかなり嬉しい。
しの

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