曇天

新感染 ファイナル・エクスプレスの曇天のレビュー・感想・評価

4.5
まただ。韓国映画にまた驚かされた。
『グエムル 漢江の怪物』は国に翻弄される国民に警鐘を鳴らす社会派怪獣映画だったが、パニック映画の皮をかぶりながら危機意識を揺さぶる映画がまたやってきた。…といった第一印象で観てみたらコンマ1ミリ微妙に違う。ゾンビ映画として迫力があって普通に怖い。でもB級のように重要人物がいきなり死ぬことはない。父と娘、そのほか見ていて助かってほしくなる一般市民がリアルに動いていく。列車の中の一本道はアイデアの勝利で、正面からしか襲ってこないから対処の余地があり、これを突破口としていく姿はかっこいい。一個一個はゾンビ映画によくある描写が多いのだけどそれがストーリーとキャラクターに合わせて上手く配置してあって、心に来る。韓国だけでなくどこででもありそうな核家族の家庭崩壊、資本主義の下の格差、国の無責任な対応など織り交ぜてゾンビ映画の面目躍如を果たす。そもそもゾンビは現実の社会を風刺する装置だった。そして最後には感動させる。ゾンビ映画で感動する日が来るなんて!

主人公は預かった株を自由にして他人の勝ち負けを操作するファンドマネージャー、であり娘にあまり関心が持てない父親でもあり、これらが後々の展開に効いてくる。本当は何が大事だったのかに気づいていく。さらにあの〇〇会のシーンも使ってくるなんて…、伏線捌きが容赦ないです。キレッキレです。パンフのコメントで「WDよりイイ!」なんてはしゃいでたスティーブン・キングはやってないかも知れないけど、この映画はゲーム版の『ウォーキング・デッド』に少し似通ってる部分がある。あっちは疑似的な保護者から巣立ちする少女の成長を描いてて、そのシーンはゲーム的にもクライマックスになっている。今回はそれを本物の父親の視点から描いてて別の感動がある。WD以来ドラマ主体のゾンビものが増えてきていて、今回その色が強くなったと言える。でもそれが韓国映画だったかー…。パク・チャヌクとかポン・ジュノとかもだけど韓国映画は何かと言えば伏線を大事にしたストーリー重視だし、台詞以外の演出で説明するし、ホント器用だと思う。『猟奇的な彼女』ですら伏線映画。それをゾンビでもやってのけるか!と。いくつ底が抜けるんだか見物。

細かい所では、おばあちゃんの最後のいやーな本音とか、頼れるおじさんの序盤のちょいいじわるに和むし、ババア妹の世間への復讐とか、おっさんのラスボス感とか好き。ゾンビ映画としての小気味良さに何度もガッツポーズで膝を叩きました。はー楽し。
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