わたがし

新感染 ファイナル・エクスプレスのわたがしのレビュー・感想・評価

5.0
 クソなので死ぬほど主人公に感情移入しながら観た。誰よりも自分のことが大事だし、誰よりも自分の大事な人が大事で、それ以外の自分の接点のない人間のことなんかどうでもいい。それは自分だけが生きていたいという純粋なエゴでもあるし、自分はそれ相応の価値のある人間だというクソみたいな思い込みから来るものだと思う。
 ナルシストな主人公にナルシストな自分を重ねて、映画としての異常な完成度に惚れ惚れしながらも「ああ…自分ってほんとクソ人間だよな…っていうか何だかんだ人間ってクソだよな…」と思いながら観ていて、でもその感覚も少しずつ映画が進むにつれときほぐされていって「やっぱり人間は最高だよ、人を救ってナンボだよ」という思考回路になっていく自分がいた。ある意味でものすごい体験だった。普通なら何年もかけてするような倫理観の改善とか成長を、この映画はたった2時間で習得させてくれる(もちろんその価値観を映画が終わった後も半永久的に持続させることはできないけど)。それぐらい人生の大切なことが詰まった映画だと思うし、体験だと思う。果ては人間はなぜここまで社会文化を発展させることができたのかみたいなことまでも考えさせられた。
 新幹線のあらゆる空間を全部有効に映画的に魅せてやるぜ!!!という気迫に満ちた演出と画作りと脚本、くどすぎて後半吐きそうになってくるレベルの役者陣の渾身の顔面芝居、エキストラレベルの役どころしかないゾンビの方々も全員ダンサーか何かなのかよってぐらいに俊敏にヤバい動作をし続けているというスペクタクル。全てが完璧で、恐らく全てが計算し尽くされていて、決められた予算の中でここまでならいけるだろうという確実な勝算の下で綿密に作り上げられたスケール感なんだと思う。そう思うと本当にそれができる人間という生き物やべえなっていうか、この映画自体のテーマとも重なって「人間という存在の尊さ」みたいなものを感じた。
 でも、やっぱり自分はこういう精密で何の歪みもグラつきもない映画があんまり好きじゃない。確かに人間の本質的なことはグロテスクなほどみっちり描かれていることは頭で理解できるんだけど、それが直接ハートに刺さってこないというか、人間ってもっと不条理でめちゃめちゃで理屈もクソも何もないよ!!!と思ってしまって、こういう理屈詰めでスマートな映画を観ると居心地悪く感じてしまう(これは特にこういうテーマなので尚更)。なので本当に抜群に面白い映画だと思うんだけど、何だかなあ、何だかなあ、ラストも何だかなあ
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