まっつん

新感染 ファイナル・エクスプレスのまっつんのレビュー・感想・評価

3.9
アジアンゾンビ映画が熱い!!昨年は日本で大傑作「アイアムアヒーロー」が生まれ、今年には韓国からまたしても傑作がやって来ました!やはりここ数年でのゾンビの世界的な「クラシックモンスター化」の影響が強く感じられます。

本作では舞台を新幹線車内とその周辺に限定した攻防が描かれています。新幹線同様映画自体も走り出したら非常にスピーディーであるが故に今作の走るゾンビたち(個人的にはゾンビはゆっくり動く派)は映画のテンポと非常にマッチしていたのではないかと思います。また新幹線というとポンジュノの傑作「スノーピアサー」を思い出さざるを得ません。「スノーピアサー」は電車を階級社会の縮図として描いた非常にグロテスクな作品でありました。そして本作でも階級というものに対する一種批評的な目線も含まれており、新幹線というものはその直線的な構造上、階級を描くのに非常に適した舞台装置であるということが言えるかもしれません。また新幹線や電車は「公共性が高い上に密閉された空間」であるが故にモラルというものをスマートに描くことが出来るということに気づきました。「お年寄り、障害者、妊婦など体の弱い方には席を譲りましょう」といった文言を誰でも聞いたことがあるように、道徳的な行動を起こす機会に遭遇する可能性が高いといった認識が一般的です。よって登場人物たちのモラルを「言葉」に頼らず「行動」で示しやすいやすい舞台空間だと思います。その点を本作は非常に上手くやっていて登場人物たちのモラルの殆どは「言葉」ではなく直接的な「行動」によって描かれています。

そして本作は一言で言うと「自分だけ良ければいいと思っている奴は死ね」っていうことだと思います。いかなる状況であっても利己的な行動は醜悪であるということです。また逆にいかなる状況であっても完全に利他的な行動は美しく気高いものであります。そしてその「利他的な行動ができるかどうか?」という事こそが人間性そのものであるという事を本作は言っているように思います。象徴されるのは列車に勝手に乗り込んだホームレスです。ヨンサンホ監督はこのホームレスに大きな意味を与えていて、要は「社会でまるでゾンビの様に扱われているホームレスを本当にゾンビが現れた時に我々は人間として受け入れるだろうか?」というテーマがあります。そして本作ではホームレスはなし崩し的に主人公たちと行動を共にすることになった結果、「人間的」な行動に触れ、彼自身の人間性を回復するという物語になっています。

という訳で非常に道徳的なテーマをスマートに描ききっている作品であることは間違いありません。しかし、言いたい事が無いわけでは無いんですよね。まずやっぱゾンビ映画はゾンビが人肉をむしゃむしゃ食べてナンボってとこがある訳です。これは別に自分がただ単に残酷描写が好きだから言っている訳ではありません。(それもあるけども)食人行為というのは人類にとっては最大のタブーのうちの一つと言っても過言でありません。人類は食物連鎖の頂点に立っているので普段自分が何かに食べられる事があるとは思わず生きている事が殆どだからです。またワニだとかライオンだとか恐竜に食べられるのと「人間に食べられる」のでは意味合いが大きく違います。人間には前述したとおり「人間性」があり、また生物学的に同じ種であるが故に食べられる事があるなど思わないからです。そんな人間が何の躊躇もなく人肉を食らう姿には「人間性の喪失」への恐怖があります。そういう意味ではゾンビの怖さを際立たせるために食人描写が必要であり、本作のテーマ的な必然でもあるように思います。また溜飲があまり下がらないっていう部分もありますね。クズ野郎は映画の中でくらいとことん酷い目にあって死ねばいいんです笑。

また演出がエモーショナルに流れすぎではないかとも思いました。これは映画的に上手い見せ方が多くある作品だけに非常にもったい無いと思います。特に後半は情感たっぷりに畳み掛けてくる描写が多かったんですが、そんな事しなくてもいいのになぁと思ってしまいました。