真田ピロシキ

新感染 ファイナル・エクスプレスの真田ピロシキのレビュー・感想・評価

3.6
「ゾンビより人間が怖い」最早このテーゼはゾンビ伝道師ロメロの定めし教えに慣習的に従っているだけのように思うことが多々ある。ウォーキングデッドとか。ゾンビは背景じゃないし射撃の的でもない。増してや社会風刺をしたがるばかりの小賢しい奴でもない。もっともっとゾンビの怪物性を強調してくれて良い。そういう意味で本作のゾンビ君たちには大喝采を送りたい。普通の映画でもほとんど打つ手がない全力疾走ゾンビが閉鎖空間で大行列!窓を突き破って上空から落下のゾンビレイン。下りのエスカレーターにはゾンビ様の御団体お待ちかね。ゾンビ将棋倒しにゾンビ数珠繋ぎゾンビマラソンとサービス精神溢れる。『ワールドウォーZ』の城壁攻めゾンビに匹敵するワクワク感。あの映画が評判悪いの分からんよ。対する人間側もやるもの。韓国バイオレンス映画を多く見てるとアメリカ並の銃社会と勘違いしそうになるが一般市民なので銃などない。しかし韓国は近接戦闘も強いのは韓国バイオレンス映画を見てるなら一般常識。野球が盛んな国で良かったぜ。バットは銃よりも強し。だがバットすら必要としないステゴロおじさんマ・ドンソク無双は予想guy。ゾンビをぶん殴り蹴っ飛ばし首をへし折る。機動隊の盾で薙ぎ払い走行中の車両に飛び乗る超人振り。キャプテンコリアを名乗ってパワードスーツを身に纏った悪しきファイナンシャルマネージャーをボコるスピンオフ見てみたいです。

と、これまでパニックアクション映画の面ばかり取り上げているが、本作は最初に述べた「ゾンビより人間が怖い」をお約束ではなくきちんと描いている。閉鎖空間で膨れ上がるエゴ。誰しもが自分と親しい人間以外には冷酷になり切り捨てることに躊躇がなく、生き残ってもまともな精神状態ではいられない。特にバス会社の偉いおっさんの下衆加減は飛び抜けてて彼の存在が人間の恐ろしさを際立たせる。ゾンビになってもタチが悪いのが完璧なクソ野郎。また貧乏人蔑視や昔の民主化デモを見ていたであろうおばあさんのデモ嫌悪。指示に従っただけの人間が巻き起こした大惨事と韓国社会が抱えている問題を浮き上がらせる。同じ東アジアゾンビ映画でありながら全く面白くなかった『アイアムアヒーロー』は銃を撃つまで長すぎたのが大きいが、そうした視点をあまり感じ取れなかったのもある。やはりゾンビ映画に社会批評性は不可欠なのかもしれない。

欠点は邦画もビックリのお涙頂戴シーンの多さ。その内容もベタベタすぎて悲しいシーンにただ悲しい音楽をかけるだけの陳腐さには辟易。あの飛び降りる時の回想とかねーキッツイ。また台詞で説明しすぎてるのもあって、アニメ監督の初実写映画ということで慣れてなかったのかもしれない。あと細かいことで言うと2016年なのに娘へのプレゼントがwii。2台目以前にそこはせめてwii uだろ。日本よりゲームが盛んな韓国でこれはなあ。

邦題に関してはB級くさい駄洒落になってるが間違ってはいないのでタイトル自体にはさほど文句ない。問題はその経緯で「釜山」の文字を見ただけで拒否反応を起こす層を考えてこのタイトルになったという噂を聞いた。それが本当ならゾンビ並に脳が腐ったレイシスト共は元より、そんな奴らに忖度した配給の情けなさに泣けてくる。日本映画界もいよいよ暴徒化の兆しを見せてきたアイツらを風刺したゾンビ映画を作り我が国の病理を露わにするべきだ。