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エルネストのCHEBUNBUNのレビュー・感想・評価

エルネスト(2017年製作の映画)
2.7
【オダギリジョーが日系ボリビア人に!】
昨日から公開された阪本順治最新作。あのエルネスト・ラファエル・ゲバラ・デ・ラ・セルナ(Ernesto Rafael Guevara de la Serna)と共に闘った日系ボリビア人フレディ前村の伝記映画で、キューバとの合作だ。

もう一度言う。あのエルネスト・ラファエル・ゲバラ・デ・ラ・セルナ(Ernesto Rafael Guevara de la Serna)と共に闘った日系ボリビア人フレディ前村の伝記映画だ。チェ・ゲバラの伝記映画ではない。

その為か、公開初日TOHOシネマズ海老名 20:30の回は30人程度の動員と閑古鳥状態。先週観た「ドリーム」と比べると悲惨な駆け出しでした。

さて、私の芸名、ペンネームの由来であるチェ・ゲバラに関係する映画だとのことで観てきた。面白かった。特に後述するがオダギリジョーの豹変っぷりに圧倒される作品であり、彼の演技から滲み出る「信念を持って生きること」は普遍的高揚感を与える。

しかし、まず最初に苦言を呈したい。一見緻密な描き方をされているように見える「エルネスト」は、非常に過不足が多い歪な作品だ。

いきなりキューバの医大で、ボリビア留学生を取り仕切り、政治グループのまとめ役として活動するフレディにカストロから手紙が来るシーンや、
チェ・ゲバラと最初に会うシーンが、説明を省きすぎて奇妙に見える。特に後者は、フレディとチェ・ゲバラがあたかも何度か会っているように見えるが、後々シーンでチェ・ゲバラがフレディを認識していなかったことが分かる。明らかに説明不足だ。

ただ、一番問題なのは、冒頭のチェ・ゲバラ広島訪問シーン。千羽鶴の佐々木 禎子(?)に会ったり、資料館を訪問したりするところをじっくりと描く。そしてチェ・ゲバラは「君たちはアメリカにあんな酷いことされたのに何もしないのか!」と語る。

この一連のシーン自体は見応えあるのに、後のフレディ前村の人生と上手くリンクしていない。つまり物語としての軸がズレてしまっているのだ。

フレディ前村は二世として、日本人の血筋を引きながらもボリビア人として生きている。そんな彼は、自分の村の貧困に心を痛め、医者になろうとキューバに留学。

恐らく政治的意思もありキューバに留学したとは思うが、演出を観る限り、水害とか貧困が彼を動かしたようにしか見えない。そうなるとチェ・ゲバラの台詞がストーリーと噛み合わなくなる。

しかもフレディ前村が革命家になる過程は、チェ・ゲバラと非常に似ている。何が言いたいかというと、チェ・ゲバラも医者を目指し、その過程で革命家になったということ。チェ・ゲバラ物語を冒頭に持ってくるなら「モーターサイクル・ダイアリーズ」の頃の彼を描く必要がある。

あるいは、チェ・ゲバラを神聖化するなら、最初から見せてはいけない。

結局、フレディ前村がゲリラになった後の活動も、予算の関係か中途半端な形でしか描かれておらず、観ていて面白いのだが不満も多い作品でした。

駄菓子菓子、本作を観た誰もが絶賛するものがココにある。それはオダギリジョーの演技だ。「FOUJITA」で、フランス留学していた私も惚れ込む流暢なフランス語で演技していた彼が、今度は全編スペイン語で演技をしている。

これが凄まじい。もはやそこにはオダギリジョーのオの字もなかった。完全にフレディ前村もとい日系ボリビア人そのものだ。日本人の血筋を引きながらもボリビア人として生き、異国キューバで勉学を積むという、一般人には想像もつかない世界観、複雑な人物像を見事に体現していたのだ。

これは私的アカデミー賞主演男優賞ものだ。

これを観るだけでも価値はある。とくに役者をやられている方には観て欲しい一本だ。
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