えんさん

エルネストのえんさんのレビュー・感想・評価

エルネスト(2017年製作の映画)
2.5
キューバ革命戦士、エルネスト・チェ・ゲバラ。彼は1967年、当時軍事政権だったボリビアの解放戦線で命を落とす。そのゲバラの部隊に帯同し、ゲバラのファーストネーム”エルネスト”を戦士名としてもらい、1967年8月に25歳の若さで散った実在の日系人がいた。彼の名は、フレディ前村。日系2世として生まれた彼は、医学生としてキューバの国立ハバナ大学に留学していた。キューバ危機のとき、ゲバラと出会ったフレディ前村は、彼の熱意ある思想に心酔していくのだが。。「湯を沸かすほどの熱い愛」のオダギリジョーが、「団地」の阪本順治監督と3度目のタッグを組む伝記ドラマ。

今年(2017年)のノーベル文学賞は、日系イギリス人のカズオ・イシグロ氏が選ばれました。日本でも受賞後、彼の小説が売れ、ニュースでも取り上げられましたが、彼は両親とも日本人であるものの、1983年にイギリスに帰化しているため、正式にはイギリス人。日本人としての受賞が素直に喜べない人も、僕を含め、正直多かったのではないかと思います(映画ファンとしては、「日の名残り」、「わたしを離さないで」などの映画化された名作が多い彼の受賞は素直にうれしいですけど)。このように外国の映画でも、特に日系の人たちを扱う作品を見ると、民族の血としては同族意識があるけど、国籍は所詮違うものがあり、特に戦中期の日系人を扱ったドラマを見るときは複雑な想いを抱いてしまいます。ということを書く本作も例外ではなく、本作は日本映画(正式にはキューバとの合作映画)ながら、日本に一度も足を踏み入れたことのない日系人を、日本人が演じるという作品の背景もやや微妙な作品となっています。

日本映画ということで、ゲバラがキューバ革命直後に訪日した場面から始まっていますが、これは物語の効果というよりは、日本映画に引き寄せたかったということしか分からないシークエンスになっていると思います。その後は舞台をフレディの育ったボリビア、そしてキューバというところに移して描かれていきますが、フレディ前村という人物が自らの意思を持ちながら青春時代をキューバで生き、祖国ボリビアのために命を賭していったことは理解できる作りになっています。オダギリジョーの抑え気味の演技も、フレディが如何に謙虚に、誠実に生きていったかを体現しているといってもいい名演でしょう。でも、これを日本映画として、なぜ作るのかがやはりピンとこない。キューバ人だったら革命前後の雰囲気に共感できたり、ボリビア人だったら祖国解放のために戦った人々に感動できたりするのでしょうが、日本人から見ると何に共感すればいいのか、やっぱりイマイチピンとこないという感じです。

ちなみに、ゲバラがなぜボリビア戦線に身を投じていったかは、ベネチオ・デル・トロ主演、ソダーバーグ監督の「チェ 39歳別れの手紙」を見るとよく分かります。