映画漬廃人伊波興一

エルネストの映画漬廃人伊波興一のレビュー・感想・評価

エルネスト(2017年製作の映画)
3.9
玄人の誇りに満ちた阪本順治「エルネスト もう一人のゲバラ」の挑発にのせられて

阪本順治が南米を舞台に映画を撮り始めたという報せを聞いたとき、
どれだけワクワクしたことか。

その思いをまずは先回りして申し上げます。

デビュー作「どついたるねん」以前の「父」「鉄腕仮面」などの自主映画から一貫して阪本作品を足掛け30年追い続けてきた者にとって、阪本順治ほど新作に接するたびにかくも(外された)と思わせてくれる日本映画人はおりませぬ。

それは「どついたるねん」の感動をもう一度味わいたく接して(外して)くれた第二作「鉄拳」や劇作術を大胆に(外した)孤高の傑作「トカレフ」、こちらの喜劇の想定を悉く(外してくれた)「ビリケン」「ぼくんち」「愚か者」「顔」から「大鹿村騒動記」や「団地」に至るまで変わることなし。

「エルネスト もう一人のゲバラ」の素晴らしさはその予告内容から誰しもの頭によぎるスティーブン某の「チェ」二部作への想起など木端みじんに(外して)くれる政治映画でも、啓蒙映画でも、伝記映画でさえない、純粋に(戦う男)の映画であり、
純粋に活劇であること。
そして監督ご自身が好む孤立無援の映画であること。

オダギリジョーが革命戦士であるのは、赤井英和が単にボクサーや賭け将棋棋士であったことと何ら変わりありません。

深作欣二+笠原和男に準ずる活劇魂を堪能できたのは昨年の大収穫でしたが、
映画ジャーナリズム自体がこの玄人の誇りに満ちた挑発に何らかの抑圧を感じなかった気がするのは私だけでしょうか?

やはり、いつの時代も阪本作品は孤立無援なのかもしれません。