Inagaquilala

スプリットのInagaquilalaのレビュー・感想・評価

スプリット(2017年製作の映画)
3.4
「シックス・センス」(1999年)、「アンブレイカブル」(2000年)のM・ナイト・シャマラン監督の最新作。彼の作品には、死者の霊が見えてしまったり、無意識に危険人物を見分けたり、という超能力を持った人間が登場する。初期の頃はある意味それが彼の作品の「売り」でもあったし、超能力者を物語の中心に据えたサイコスリラーという分野を開拓してきた。

近年のM・ナイト・シャマランは、いささかその路線に飽きが来たのか、監督作品にもキレがあまり見られず、興行成績もパッとせず、ややスランブ状態にあったように思う。この作品は、そのM・ナイト・シャマランが新しい突破口を見出そうと取り組んだものであると感じた。彼は新たな再生をこの作品に賭けている。

3人の女子高生が、突然、車に乗り込んできた見知らぬ男にそのまま拉致され、二重の扉で閉ざされた密室に閉じ込められてしまう。おおっ、これはよくある監禁ものかなと思っていると、案に反して物語は彼女たちを監禁した男にフォーカされていく。男はあるときは几帳面で神経質な男、あるときは9歳の少年、そしてまたあるときはフェミニンな衣装をまとった「女性」として、彼女たちの前に姿を現わす。

男は実は23もの人格を持った多重人格者だったのだ。宣伝物では、このあたりが強調されていたので、封切り日に自分も劇場に足を運んだ。多重人格者の男は、姿を見せるたびにそれぞれ異なった「顔」を彼女たちに見せる。なんとか脱出を図ろうとする3人だったが、ころころと変わる男の表情や行動にとまどいを覚え、ついには、3人は別々に監禁されることになってしまう。

作品の前半、3つの物語が入り混じる。ひとつは謎の男に監禁された3人の女子高生の話、ひとつはその女子高生の中の1人ケイシーの子供時代の回想、そしてもうひとつは多重人格について解説する女医の講義だ。この3つのシーンがなんの前触れもなく、最初は混在しながら物語が進むので、やや面食らう。

監禁された3人の女子高生のなかでもケイシーだけが、なにか陰を秘めた存在で、それは少女時代に受けた叔父からの性的虐待に原因があることが、彼女の回想として少しずつ明かされていく。女医のシーンでは主に多重人格に関しての諸研究が述べられ、時間を追うごとに彼女が謎の男の主治医だということが明らかになる。

このあたりのシーンの整理がいまひとつわかりにくかったように思う。あえて説明を配して並べたという監督の意図もあるのだろうが、このあたりはシンプルさも必要ではないかと感じた。それとサスペンスが女子高生たちの脱出劇と男の多重人格の発露に分散されてしまい、いまひとつ引込まれ具合が緩いような感じもした。初期の頃のぐいぐいと引っ張るサスペンスが、3つのシーンが進むなかで薄まってしまっているようにも思えた。

後半過ぎから男に24番目の人格が出現し、これが物語をカタストロフへと導くのだが、ここでようやくM・ナイト・シャマラン「十八番」の超能力が登場する。そして、ご丁寧に、この超能力を生かした次回作があることを観客に知らせる。この情報は、もうすでにニュースとして流れているので、ネタばれではないだろうから書くと、どうやら、M・ナイト・シャマランの次回作は「アンブレイカブル」とこの「スプリット」を合わせたものらしい。タイトルも「Glass」であることも明らかになっている。

その作品は2019年の公開になるらしいが、こちらでM・ナイト・シャマランは完全復活を狙っているようだ。少なくともふたり以上の超能力者が登場し、マーベルのシリーズもののような作品が展開されるのではないか。そうするとこの3人の女子高生の監禁ものは、単なるそれの序章に過ぎないということなのか。ちょっと肩透かしの感じはしないでもない。
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