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スプリットのレクのネタバレレビュー・内容・結末

スプリット(2017年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

23人もの人格を持つ解離性同一性障害の男に拉致監禁された3人の女たち。
女3人vs23人の人格を持つ1人の男。
そこで、もう一人"24人目"の人格が生まれようとしていた。
M・ナイト・シャマラン監督最新作。

解離性同一性障害という難しい役を見事に演じきったマカヴォイの演技とシャマラン節の効いた脚本が見事に融合した秀作。
設定を活かした多種多様な人格の不気味さと目に見えない恐怖が彼女らを追い詰めていく様は鳥肌もの。
シャマラン節が強く、苦手な人には受け入れ難い内容かもしれません。


解離性同一性障害。
以前は多重人格障害とも呼ばれていました。
解離性同一性障害といえば、アメリカの作家ダニエル・キイスが描いた「ビリー・ミリガンと23の棺」でも有名です。
今作も23の人格が共存する誘拐犯が登場します。
主人格ケビン。
"照明"の主導権を握った強迫症のデニス。
そのデニスに協力する几帳面な女パトリシア。
リーダー格のファッションセンスに秀でたバリー。
9歳の無邪気な男の子ヘドウィグ。
糖尿病のジェイド。
語りだすと止まらないオーウェル。
パソコンの日記ファイルで名前のみ登場するハインリッヒ、ノーマ、ゴッダード、バーニス、ポーリー、ルーク、ラケル、フェリダ、アンセル、ジャリン、キャット、BT、サミュエル、メアリーレイノルズ、イアン、ミスタープリッチャード。
そして24人目の人格、ビースト。
残念ながら23人の人格という謳い文句でしたが、作中では人格全てが登場するわけではない。

作中で語られましたが、強迫症で完璧主義者のデニスの人格が生まれたのはケビンが幼少期に母親から受けた虐待が原因でしたね。
実際、解離性同一性障害は虐待など過去の心傷的なトラウマが大きな要因ではないかと考えられています。
"虐待を受けているのは自分ではない"という現実逃避やデニスのように"完璧でなければならない"という自分より強い誰かを自分の中で作ってしまうことで別人格が生まれるそうです。

ビーストの人格が現れる前、パトリシアの人格で花を購入し、プラットホームへ置き、列車の中でビーストが誕生します。
この花も人格形成の儀式的なもので手向けではないかと思います。

何かをきっかけとして生まれる別人格。
その人格によって言葉遣いや性格、性別や病に至るまで多様性があり、人格は肉体をも変えてしまう。
"別人格は重量上げで自身の3倍の重量を持ち上げられる。"や"視力を失った女性が別人格により視力を取り戻した。"といったエピソードも作中で語られたように、ケビンの恐るべき24人目の人格もまた人という存在をも超えた存在として生まれました。
ここが突拍子もなく現れたことでホラー色もガラリと雰囲気を変え、拉致監禁と掴み所のない解離性同一性障害の不気味さから一転、ビーストという新たな人物への不安感と恐怖に苛まれる。
突然、質の違う恐怖で場面展開されるという点も彼の演技力で十分カバーできたと思います。


"照明"。主導権を握る(人格が表に現れる)為に必要なアイテム。
作中で何の説明もなしにいきなり使われたこの言葉。
解離性同一性障害者は頭の中で複数人の人格が存在する。
そこは部屋の中に椅子が並べられた状態で、各々の人格がその椅子に座っている様子をイメージしてもらうと分かりやすいと思います。
そして"照明"によって照らされた人格が表に現れる。
その"照明"の主導権を握っていたのが主人格のケビンでした。
フルネームを呼ばれて目を覚ましたケビンは自分の中に潜むビーストという人格の恐ろしさを痛感することとなる。
ケビンは2014年にバスに乗っているところ以降の記憶がないことから、そこから眠らされてデニス、パトリシア、ヘドウィグがその"照明"の主導権を奪ったと推測されますね。
この辺の各主要人格をもう少し深掘りしていればもっと内容の濃いものになっていた気もします。
しかし、これだけの人物を1人何役もこなしたマカヴォイの演技力には驚かされます。

マカヴォイの怪演もさる事ながら、アニャ・テイラー=ジョイの細かな所作に至るまで彼女の演技も素晴らしい。
大きな瞳から溢れ零れ落ちる涙には彼女の過去のトラウマや今置かれている状況に対する恐怖心、生きたいと強く願う気持ちなどの感情が表現され、同じ涙でも様々な彼女の心理描写を引き立たせています。
彼女の今後にも期待大。

この作品は最も恐怖すべきは人間の内包する様々な特徴を持った未知の性質だというメッセージでもあるのかもしれない。


「シックス・センス」のイメージがなかなか払拭できなかったシャマランはどんでん返しがあるんだろ?と予め構えられて肩透かしを食らった。なんてよく聞きますが、彼の作品の本質はどんでん返しではない。
裏の裏を返して表を見せる手法。
人が持つ恐怖の多様性を描くのが上手いんです。
それを彼の独自の世界観で魅せているんですよ。

何より彼の作品を観ていない方はラストに?マークだと思います。
ラストに登場したハゲはまさかの「アンブレイカブル」で登場したデイヴィッド(ブルース・ウィリス)じゃありませんかw
そして続編クロスオーバーとな…これはシャマランのファンにはたまらん(駄洒落っぽくなりました)
ラストの歯切れの悪い終わり方も、このラストを演出するためだったんです。
シャマランらしく大胆に宣伝してくれちゃいましたね。

「アンブレイカブル」のネタバレになるので伏せますが、銃弾を受けても死ななかったビーストに対抗できる能力を持つ"アンブレイカブル"が登場します。
ビーストとデイヴィッド、ミスター・ガラスの直接対決になるか?
次回作「グラス」への期待値は高まりますね。
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