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スプリットのトルーパーcomのレビュー・感想・評価

スプリット(2017年製作の映画)
3.5
ジェームス・マカヴォイが多重人格者ケビンを華麗に演じ分けるスリラー。
胸糞といえば胸糞だが、そこがよい。
ミスター・ガラス公開に合わせて初観賞。ミスターガラスは、アンブレイカブル/スプリットを必ず予習してから観に行かねばならない。


【1】解離性同一性障害について
本作に登場する多重人格者のケビンは、強盗強姦事件を起こした実在のアメリカ人ビリー・ミリガンをモデルにしていると思われます。

ビリー・ミリガンについては、大学の心理学の授業でレポートを書いたことがあります。
彼を題材としたダニエル・キース著の『24人のビリー・ミリガン』というノンフィクション小説があり、読書感想文的なレポートを提出する課題で読みました。

幼少期に親から虐待を受けたビリーミリガンには、精神的崩壊から自身を守るため複数の人格が発動。
本作のケビンと同様、ビリーには23の人格があり、リーダー格のアーサー/レイゲンが、誰がスポット(照明)に立つかを決定し、スポットに立った人格が表に発動する。

この本のことはすっかり忘れていたけれど「照明」という単語で「あっ!」と思い出しました。
ビリーミリガンは事件後に入院治療を受けた結果、「ティーチャー(教師)」という24番目の人格が出現し、彼が他の人格を統合することで安定/退院しました。

本作はビリーミリガン同様にケビンに24番目の人格?が出現する物語。
今度時間があったら久々に『24人のビリー・ミリガン』を読み直してみたいなと思います。


【2】演技について
本作の魅力はなんといってもジェームス・マカヴォイの演じる主人公の演技。
多重人格のケビンに次から次へと人格が発動するたびに、話し方やちょっとした仕草で演じ分けるので、本当にまるで別人に見える。
もう一目で、今誰が出現しているのかわかるという。
一応、人格が変わるたびに洋服を着替えてくれる親切設計なの冷静に考えるとおかしいんだけど、わかりやすいので好きです。

ヒロインのケイシーも演技力抜群ですばらしいし、女医のフレッチャー先生も名演。
登場人物は少ないですが、全体に演技はすばらしいです。



<以下、ネタバレあり感想>



【3】キャラクター
<マカヴォイの演じる多重人格のキャラクターたち>
23人いるという設定ですが、主人格のケビンは終盤まで眠っており主に出現する人格は4-5名。

■デニス
本作の誘拐事件の主犯格。潔癖症で神経質な男。
デニスが出現しているときは眼鏡をかけ、眉間に深いしわをよせているのが印象的。
特に面白かったのが、フレッチャー先生に「バリーのふりをした」デニスが会いに行くというシーン。
陰湿で神経質なデニスが、おしゃれで社交的なバリーのふりをするという演技。
なんていうか、根暗が無理して大学デビューしたみたいな、さわやか風なんだけどどこか浅いような感じが面白かった。

■パトリシア
デニスと共謀して事件を起こす狂気の女性人格。
ドアの隙間からスカートとヒール姿だけを見せておいてからの登場シーンの演出は見事。
彼女が登場するときは基本的にはスカート姿になるっていうわかりやすくてわざとらしい演出嫌いじゃない。
だけど、ラスト近くの次々と人格が入れ替わっていくシーンは、肩にかけていたタオルを女性が羽織るストールのようにそっとかけなおす仕草だけで女性っぽさを出してきて「すげえ!」って思った。
彼女が出現しているときは、背筋をシュッとしてるというか、立ち方だけで「パトリシアきた!」ってわかる。

■ヘドウィグ
9歳の少年の人格。
とあるきっかけで、彼が「照明」をとることが可能になってしまったことによりデニスとパトリシアが事件を起こすきっかけとなる。
ジャージを着て地べたに座るというわかりやすいビジュアルで登場。
しかし、しゃべり方の幼さ、ケーシーと話す際の頭の弱さ/ピュアさ/クソガキっぷりのリアルさたるや。
音楽聴いてヘタクソなダンスを披露するシーンが最高。
彼が出現しているときは、口をとがらせてだらしないしゃべり方する感じと目の泳ぎ方で一目でヘドウィグだとわかるのすごい。
不思議なんだけど、彼があらわれているときは身長もかなり低く見えます。
まあマカヴォイは割と背の低い俳優さんではありますが。

■バリー
照明を仕切るメインの人格という設定だが、彼が照明を奪われたことで今回の事件が発生したので、実際には終盤の一瞬以外はほとんど登場しない。
(デニスがバリーのふりをして先生に会いに行った際の、バリーっぽいデニス、はかなり多く登場するが)

ファッションに通じており、社交的な彼は立ち振る舞いが颯爽としていて、X-MENシリーズでマカヴォイが演じるチャールズと重なるところがある。

■ビースト
ケビンの24番目の人格?ビースト。
物語のクライマックスで登場。怪物的パワーを発揮し、壁や天井をよじ登ったり鉄格子を曲げたり銃で撃たれても貫通しなかったりする。

皮膚が硬化して隆起していくところでCGを使ってはいるけれど、ハルクのように巨大化するでもないのに体を震わせる演技だけで怪物感を出してくるのすごい。
とはいえ、壁を登るシーンはあまりにも無意味かつギャグみたいでちょっと笑ってしまった。

この映画はスーパーヴィランのオリジン作品(誕生譚)なんですよね。


<その他のキャラクター>
■ケイシー・クック
撮影時19歳の若手女優アニャ・テイラー=ジョイが演じるケイシー。とにかく演技が抜群だった。
なんていうか、ホラー生えする顔してる。

ホラー生えといえばキューブリックの『シャイニング』でジャックの妻がホラー顔で最高だったけど、あれの美少女版って感じ。
ちょっと川島海荷ちゃんにも似てるなと思った。

この子でアリータ実写化すればよかったんじゃと思うくらい異常に目が大きいので、ポロポロって涙こぼす演技が抜群。
ヘドウィグとコミュニケーションとろうとするシーンがとてもよいし、けっこう大胆に胸元とかさらけだしてるのにエロくなくてさわやかな感じもよい。

逃げ惑っていた主人公女性がラストで突如銃を手にして反撃するっていうホラー映画定番のパターンだけれど、
本作の場合は過去の回想シーンでケイシーは猟銃に親しんでいたことがきちんと描かれていたので違和感なく観ることができました。

■女の子2人
ケイシーと共に誘拐されるクラスメイト2人は微妙だった。
さして特徴のない普通の子っていう感じでよくも悪くも印象が薄い。

もう少しクズビッチな感じでもよかったような気がするけど、それだとデニスらの悪役感が減じてしまうからそうしなかったのかな?
監禁された部屋からハンガー使って脱出試みるシーンにかなり尺割いてたのでいったん脱出成功でもするのかと思いきやそれかよwwwっていう結末ホント無情だった。ひどい。

■フレッチャー先生
演技力抜群だった。こんな聖人いるの?ってくらいいい人なのにベアハッグとは。。

■ケイシーの叔父さん
コイツもある意味「ビースト」だったな
( ゚Д゚)


【3】演出
アンブレイカブルに比べるとだいぶ数は減ったが、シャマラン監督特有のドア枠越しやおかしな場所から映すカメラワークは健在。
眠らされていたキャラクターが目覚めたときは横向きになってるの好き。

ホラー感の演出もなかなかよかった。
最終盤、泣きながら駆け出すケイシーのシーンで画面全体が黄色っぽくなってるところでなんだかアートっぽさを感じた。
ちょっとブレラン2049っぽいというか。

オープニングとエンドロールの演出もよかった。
クレジットが6×4=24(ケビンの人格の数)に分割されて映し出される。

【スコア】
★3.5で。
3部作の2作目と知って観賞しましたが、単に「シャマラン監督の新作スリラー映画」だと思って観に行ってあのラストシーンを劇場で初めて知ったら
「えええええ??」ってびっくりしただろうなと思います。

情報ゼロで観たかった映画ではありますが、2回目のほうが楽しめる映画でもあると思います。

初見時はデニスらとビーストがやったことがひどすぎて胸糞な映画って印象も残りますが、
きちんと状況を理解してみると、虐待を受けて育ったケビンに発動した人格のうち問題があるのは主にデニスとパトリシアであって、
どこか憎めないヘドウィグがなぜか照明をとれるようになってしまったことで悲劇が起こったっていう構造を理解して見ると、彼に同情できる余地もけっこうあって、
ケイシーと彼の共通点も相まって見え方が変わってくる。
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