荒野の狼

関ヶ原の荒野の狼のレビュー・感想・評価

関ヶ原(2017年製作の映画)
3.0
2時間30分の作品で、登場人物や背景の紹介がされずに、セリフも聞き取りにくいので、わからない箇所はストップして、用語を調べながらじっくりと鑑賞。監督は、セリフの聞き取りにくさは合戦中だから仕方がないといった内容のことをインタビューで答えているが、セリフが早口で聞き取りにくいのは映画の全般にわたり合戦場面に限らない。たとえば、映画の冒頭は、石田三成(演、岡田准一)が壬申の乱の大海人皇子ゆかりの関ケ原にある桃配山(ももくばりやま)に登場するところから始まるのだが、岡田が「大海人皇子」と言っているのは、何度か再生を繰り返してやっと聞き取ることができた。私は岐阜県不破郡関ケ原町は、不破関(ふわのせき)をはじめとして壬申の乱ゆかりの地であることを予備知識として持っていたので、「大海人皇子」という単語が聞き取れたが、そうでないと本作全般にわたる早口で活舌の悪い喋り方は問題(もし日本語字幕が入っているDVDなどがあれば、字幕オンで見たい作品)。本作のキーワードである「大一大万大吉(だいいちだいまんだいきち)」も、最初に語られるシーンは極めてセリフが速くついていけない。最終版にも有村架純によるこのセリフがあるが、二度くらい聞かないと何をいっているのか聞き取れなかった。岡田も有村も、他作品では会話が聞き取れないということはなかったので、意図的なセリフの指導なのか、録音が悪いのか不明であるが、映画の根幹に関わる部分が視聴者にわからないことになるので致命的な欠点と言える。
逆に本作で説明が字幕で現れるのは年月と地名。松尾山、桃配山、大垣城など、関ケ原関連の古戦場マップのようなものと照らし合わせながら本作を見ると、どのように石田三成と徳川家康が対峙したのかがわかり興味が沸き、現地を訪れたいというモチベーションにもなる。
本作では、登場人物が多い中で、歴史上はあまり語られないが登場場面が多いのが、平岳大(ひらたけひろ)の演じる島左近。平は183㎝の長身で父親の平幹二朗を思わせる迫力の演技。なお、本作では島が兜に位牌をつけて関ケ原の戦場に向かい、息子にその位牌を渡すシーンがあるが、これは史実ではなくフィクションで、何の説明もされない(本作には、こうした無用のシーンが多い)。島の兜は実物が久能山東照宮に保管されており、特別展示の時には兜を見ることができる。実存する兜は本作に登場するものと形状は一部似るものの異なっている。無用の位牌などをつけることに無用の時間を割かず、むしろ現存する兜に形状を近づけるなどのしっかりとして時代考証をしておれば、本作の価値は上がったと思われる。
大谷吉継(よしつぐ、本作では刑部ぎょうぶ)の登場も多く、義に厚い武将役柄であるが、史実では大谷が関ケ原の戦場で切腹をした部分が所説あり、本作での扱いが興味があったが、大谷の最後のセリフが何度再生しても聞き取ることができず、理解が困難な場面となったのは惜しい。史実では、大谷はハンセン病と考えられている病気を患っていたとされているが、本作では特殊メイクがされており、これがハンセン病に対する差別を助長する可能性があるものであるのはいただけない。製作者の意識の低さには残念。
関ケ原の合戦のみを扱っている映画は、ほとんどないので、史実と本作のフィクションの違いなども楽しみながら鑑賞できる貴重な作品といえる。ただ、合戦シーンは、東軍と西軍の区別が不明でどちらが優勢なのかまったくわからない展開。朝鮮半島から大砲を使う人が参加するなど史実にない設定もあり、終わり方も史実を無視。「6時間で終わった」ということを売りにしている映画であるが、時間経過の描き方がきちんとされておらず、緊張感もない。
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