りりー

映画 夜空はいつでも最高密度の青色だのりりーのレビュー・感想・評価

4.1
わたしの知っているままの渋谷と新宿で、わたしと同世代の人々が這いつくばって生きていて、くそったれな日々のなかで同じ目をした誰かに出会う。欠点はあると思う、でも嫌いにはなれない。だってこれはわたしの映画だから。

最果タヒの同名詩集を原作としながら、引用は最低限に留め、詩の持つ空気や情景を元に作劇したのは随分挑戦的なことだったと思う。原作の魅力的な言葉たちに頼らなかった気概は立派だ。けれど一方で、エピソードや演出がなんだか散漫な印象を受けてしまった。そもそも、看護師とガールズバーのダブルワークの女性と、日雇いの現場作業員の男性って(もちろんリアルなんだろうけれど)どうにも安易な気がしてしまう。他にも、居酒屋での会話、出稼ぎ労働者、ガールズバー、スマートフォン等、記号的な描写が目につく。それは2017年の映画として価値があることだと思うけれど、いわゆる”若者のリアル”みたいな、そうやって消費されていく映画は、わたしはもうたくさんだ。
それでも本作を嫌いになれないのは、渋谷で同じ目をした誰かに出会うことが、そして偶然に再会することが、どれだけ困難なことかわたしは知っているから。運命を信じるのが難しい現代で、何もかもが過剰な渋谷で、悪い予感と死の匂いに満ちた毎日で、それでもとっておきの出会いが待っているかもしれない。それがロマンチックでなくて、恋愛映画でなくて、なんだというのだ。

主演の二人も良かった。登場してすぐ、生きづらそうだなと思わせる慎二/池松壮亮も良いのだけれど、終始不機嫌な美香/石橋静河がとっても良い。ヤれるか/ヤれないかで評価されることにうんざりし、空手を学ぶ気の強さがあり、ボーイッシュな服装を好み、男性に媚びない。邦画でこういうヒロイン、あまり観ない気がする。美香の実家の食卓のシーンで、冷凍食品が並んでいるところも良かった。頑固で、相手を怒らせるような言動ばかりしていた美香が、終盤慎二にプレゼントされた髪飾りを身につけたり、目の前で涙を流すのは、恋に落ちたからというのもあるだろうけれど、それ以上に安心したからだ。都会で、一人で生きていくのは途方もなく怖いことだから。このぶっきらぼうな恋愛映画の行き着いた結末が、キスやセックスじゃなく、信じられるあなたと笑うことだというのも、誠実で良かったな。
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