「ここ歩いてる奴、9割地方出身者だから」
原宿の交差点の信号待ちで、助手席に座る上司が言った。
「あ、そうなんすか」
と返しながらも、殺意はゲロのように胃から込上げて来る。
でもそれよりも速いスピードで口から、
「だと思ってました笑」
という言葉が飛び出した。
ハンドルを強く握ったその時から、僕はエセ都会人になった。
疲れた身体を街へと運ぶ毎夜の満員電車。
“人臭さ”から少しでも逃れるため窓際に突っ立って、
指紋だらけのガラスに映る背後の人々を見ると、厭な気持ちがする。
目線を下げてスマホに夢中な奴、
ただただ普通に俯いてる奴、
臭い息を吹きかけ合う奴、
イチャつく奴、
寝てる奴。
でも、真っ直ぐ前を見たときに映る他人みたいな自分の顔がいちばん厭だ。
他の人と、何も変わらずそこにいる自分が厭だ。
上京して1年も経たずに、僕はもう東京が嫌いだ。
ドカドカうるさいロックンロールバンドみたいな街なのに、
慣例や節度や不自由や犬が服を着てそこら中を歩き回ってる。
浮浪者が昼寝する橋の上では学生たちが他国の子どもたちの為に笑顔で募金を募ってる。
道玄坂の路上に足つぼマットの石のように散乱するゴミを踏み歩く帰り道ほど切ないものは無く、
子どもの泣き声や人身事故で止まった電車に苛立つ人を見ることほどやるせない時は無い。
でも僕は東京にいる。
しばらくいると思う。
厭わしい場所にいて、嫌いな人を恨んで生きていたいからなのかなぁ。
『夜空はいつでも最高密度の青色だ』
そんな地方出身者の僕だが、この映画を観て、
はじめて東京と会話できた気がする。
それは決して「感動的」や「衝撃的」といった感じではなく、
ドトールとかでたまたま会った友人と雑談するかのような会話。
それで、「そうか、そのまま嫌いでもいいんだ」って、思わせてくれた。
率直に素晴らしい映画なんだけど、
東京をどこかで、いやかなり意識してる自分には語りたいことが沢山あって、そうゆう事をまんまと引き出されたからこんなに語ってしまった...
なのでもう、内容は語りません。
語ってやるもんか。
ざまぁみやがれ。