ベルサイユ製麺

映画 夜空はいつでも最高密度の青色だのベルサイユ製麺のレビュー・感想・評価

3.9
夜空は いつでも 最高密度の 青色だ…
野の花 蜜ペロ 倍賞美津子と蒼井そら…

タイトルの韻を踏む遊びをしていたらほぼ半日を費やしてしまいました。周囲からは仕事してるように見えたかもしれません…。

最果タヒさんの言葉には断片的にしか触れた事がないのですが、その際、如何にもこういう物に拒否反応を示しそうな自分が、そんなに嫌だと感じなかったので、きっとホントは凄く好きな感じなのだろうな、と製麺ベルは思ったものです。それでも敢えて触れたりはしませんが…。
一方、監督の石井裕也さんの作品は、…コレも似たような接し方で、監督作は2本しか観ていません。
この両者の作品と聞いても正直0.2×0.3位の薄ーいイメージしか浮かんでこないし、作品のムードがなんとなく苦手そう。…なのですが、他のレビュアーの方の評価の割れっぷりや歯に物が挟まったような言い振りがとても気になりましてノォ。

日雇いのワークスで口を糊する青年、慎二(池松壮亮)。看護師とガールズバーのダブルワークで消耗する、美香(石橋静河)。2人が揺れたり、触れあったり、ぶつかったり。
冒頭から慎二が…ADHDぽく喋りまくり出した瞬間に、「あぁ、ヤバい」と思いました。どうヤバいかは自分でも分からなくて、ただ、このタイプの人は、自分にとってヒーローのように見えてしまうのです。だって無理だもん。だから、彼が酷い目に合わないと良いなと願ってしまった。
美香の方は、リアリティの有るキャラクターなのかどうかちょっと判断つきませんでした。話す事の内容や論旨が絶妙に浅薄に感じられて、“そういう風を演じている女性”なのか、本当にそういう人なのか、それとも“これでいいや”と諦めている女性なのか。……因みに、本職での同僚に誘われて水商売や軽風俗を掛け持ちする流れは、恐ろしいほどリアルです。有る有る。それ知ってる。動機も、今なら分かるよ。
2人の惹かれ合い方は、余りにもロマンティックです。血が滴らないよう必死に堪える断面が、自然にピタッと吸い寄せられそうになるのを、それすらも認めてあげられず留まろうする。とても美しい心の働きだけど、やっぱりコンビニの女の子が好きだと思って、会って、振られることの方が体験としては遥かに力を持つのは間違いないと思っちゃうのだよ。

映画の語り口は、当たり前のように詩的で、それでも一般的な映画の体は意外な程損なわれていません。演技や話し言葉はリアリティが有る、とまでは言いませんが、孤独を感じている往生際の悪い人は否応無く詩的になってしまうものだし、日本人の話し言葉は元々芝居掛かっていると思います。あんな2人はそこいら中にいます。巧みな編集やイメージショットが、言葉を上手くアシストしていて、だからフラフラしてる2人の話なのだけど、向かおうとしている大きな方向性に迷いは感じられません。
不安が、浮かんでは消え、浮かんでは消えだけど、死ぬまでは生きるしかない。なかなか希望的ですね。最悪死ねば良いとも思えるし。
物語の終盤の、希望と不安が綯い交ぜになる、あの瞬間。頭の中で流れていたのは、
七尾旅人さんのアルバム“billion voices”のトラック7〜8。“なんだかいい予感がするよ”〜“あたりは真っ暗闇”でした。生きているから、ツライ目にも合うけど、でも生きているから…
ちょっと苦言も書いてみます。
⚫︎今時、“歌手がメジャーデビュー”とか“花が咲く”とかをポジティブな予兆として使うのは観客の感性をちょっと舐めているのではないかな?まあ主人公2人はそんな事ですら…という段階にある、いわば堂々と凡庸になっているという表現なのかもしれないけれど。
⚫︎“ちょっと変”な慎二のキャラクターが、最終的にはいつも通りの池松壮亮になっていたような…。
⚫︎稚拙なあのアニメーションは、何ですか?

まあ、これだけ長々と書いている時点で、好き嫌いで言えば、好きと言わざるを得ません。ずーっと腕組みして唸りながら観てましたよ。
感覚的な言葉で紡がれたドラマの断片。それを愛でもってひと繋ぎの生きた物語に昇華させた、いわば結晶の様な本作を、わざわざ自分の拙いレビューでボヤけた印象にするのも申し訳ないので、この辺で。またいつか観ると思います。

あ!蛇足です。
タイトルに「青」が含まれる点。主人公が片目の視力を殆ど失っている点。ひょっとして、今作は朝の連ドラ「半分、青い」の雑なパクり元の一つなのでしょうか?ほんと酷いなぁ。