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ロング・ウェイ・ノース 地球のてっぺんのsatoshiのレビュー・感想・評価

4.7
 存在を知ったのは、アフター6ジャンクションのコーナーにて。名アニメーターである井上俊之さんが本作を絶賛していたので興味が湧き、9月の末に頭が痛いのと疲労がたまっている体を押して恵比寿まで鑑賞してきました。

 結果、鑑賞して本当に良かったと思いました。話の内容はもう何度見たか分からないくらいのベタベタな冒険活劇なのですが、とにかくアニメーションが素晴らしすぎて、眼福なのはもちろんのこと、キャラクター1人1人がしっかりと生きた存在になっている点が特に素晴らしいと思いました。

 素晴らしい点だらけなのですが、まずはアニメーションです。本作のものは非常にシンプルなもので、私たちが慣れ親しんでいるアニメとはまた違った雰囲気のものです。私は詳しくは語れないのですが、本作は実線がキャラになく、色面だけで描かれ、背景も同じく色面だけで描かれています。日本のアニメーションだと背景とキャラは、キャラの埋没を防ぐために区別されて描かれているそうなのですが、本作では埋没など全くせずに、キャラクターが背景からしっかりを実体を持って生きています。また、日本のアニメによくある、ディティールに拘りまくった作画もありません。とにかくシンプルです。

 また、基本的なストーリーも、「行方不明になった祖父を追い、少女が冒険に出る」という、「少女」という点を除けば、もう何百回聞いたか分からないレベルの「ベタベタ」なもの。しかし、本作はそのベタベタ展開を卓越したアニメーションと、軽快なテンポでしっかりと描きます。色彩と動きが全編に亘って素晴らしいのですが、白眉は北極に着いてから。大自然の無慈悲さと雄大さをしっかりとしたリアリティを以て描き出します。この時のスペクタクルと、フッと浮き出てくる人間のどうしようもない悪感情の描写が素晴らしく、人間のちっぽけさを痛感させます。

 また、何より素晴らしいのは主人公のサーシャですね。彼女はシンプルなデザインで、日本のアニメ的な「可愛さ」は皆無です。しかし、何故か動いている彼女は超かわいい。世間知らずだった彼女が成長し、船員たちに認められながら極北の地を目指す姿は、応援したくなります。

 つまり本作は、シンプルな画面の中で、同じくシンプルなキャラクターが冒険に出るという、昔の東映動画作品のような映画なのです。そしてそれを卓越したアニメーション、レイアウトで描き出すというもので、アニメーションの素晴らしさを再認識させてくれる作品でした。とにかく画を見ているだけで眼福なので、時間があったら多くの方に観てほしいと思っています。
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