netfilms

ドリームのnetfilmsのレビュー・感想・評価

ドリーム(2016年製作の映画)
3.7
 中盤、ポール・スタフォード(ジム・パーソンズ)に与えられた黒塗りの資料を、天に掲げ、透かして見たキャサリン・G・ジョンソン(タラジ・P・ヘンソン )が宇宙特別研究本部に呼ばれる場面がある。そこでボスのアル・ハリソン(ケビン・コスナー)は、自身の研究所の職員であるキャサリンに対し「君はスパイか?」と話しかける。この場面に当時のアメリカの神経症的な苦悩が垣間見える。1960年代初頭、第二次世界大戦時代の冷戦構造を背景として、アメリカと旧ソ連は宇宙開発競争に突入していた。1957年10月4日、旧ソ連はスプートニク1号と呼ばれた人工衛星の打ち上げに成功。これが記念すべき宇宙開発競争の幕開けとなった。アメリカもソ連に遅れること3ヶ月、1958年1月31日に初めて人工衛星エクスプローラー1号を打ち上げたが、アメリカには旧ソ連に開発競争で遅れを取っている事実を認めざるを得ない時代だった。1958年12月、アメリカ合衆国は有人宇宙飛行計画である「マーキュリー計画」を発表。同時にNASA(アメリカ航空宇宙局)が設立された。今作はそれから数年後の1961年のNASAを舞台にしている。夫に先立たれ、3人の娘を育てるシングル・マザーのキャサリンは、驚くべきバイタリティで育児と仕事と恋までも両立させる。

 貧しい隣人のオリヴァーとの出会いを通して、疑似家族の姿を描いた秀作『ヴィンセントが教えてくれたこと』で知られるセオドア・メルフィは、NASAと「マーキュリー計画」に必要不可欠だった3人の黒人女性に焦点を当てる。だが時代はまだ公民権運動華やかなりし60年代、バスや図書館やトイレやコーヒー・メーカーなど、様々なところにホワイト(白人)と有色人種(カラード)とが厳密に区分されていた。服装はひざ下のスカートにパンプス、パールのネックレスを付けることを義務付けられていた。キャサリン・ジョンソンもドロシー・ヴォーン(オクタヴィア・スペンサー)もメアリー・ジャクソン(ジャネール・モネイ)も私生活の華やかな装いとは対照的に、様々な規則で雁字搦めにされていた。東と西の計算グループの対比、同じ女性として生れながらも、肌の色の違いがキャリアに色濃く影響したヴィヴィアン・ミッチェル(キルスティン・ダンスト)とドロシーとの対比。中盤、キャサリンが雨の中、往復15分も掛けてカラード用のトイレに向かった時、ケビン・コスナーが言い放った「NASAでは小便の色は皆同じ」の言葉が胸を打つ。またメアリー・ジャクソンが判事の前に詰め寄り、歴史を作ろうと呼びかける場面も高揚感に溢れた名場面である。冷戦構造下のNASAで3人の女性たちは前例のない仕事を素晴らしいバイタリティで乗り越えていく。その姿はマイノリティへの不寛容を続けるドナルド・トランプの時代を痛烈に風刺しているように思えてならない。
netfilms

netfilms