こうん

ドリームのこうんのレビュー・感想・評価

ドリーム(2016年製作の映画)
4.0
まさに”正しい資質”を持つ者たちが、負けず腐らず辛抱強くユーモアをもって、その資質を生かすまでの物語。
そして肌の色にかかわらず、男でも女でも同じ夢を見ることができ、それを叶えることができる…という”アメリカン・ドリーム”のオハナシでもあります。
(おしっこも同じ色だ!)

何と言っても主人公3人の快活なキャラクターが良かったですね。
働くひとであり、母であり、一人の女性でもあり、よりよく生きたいと願う人間である。
白人男性社会の中で生きる賢さもあり、そこを突破できる才能と勇気も持ち合わせている。
なにより明るいのがいいです。ポジティブ。
落ち込みはするけどそこはさらっと流し、行動で物事を好転させようと信じている、その振る舞いが好ましかったです。

またその描写も、言葉ではなくちゃんとアクション(芝居)と画作りでわかり易く簡潔に伝えてくるのがまた心地よかったですね。
チョークの受け渡しの反復であるとか(ここはアガった)、800mダッシュの反復と意味の反転であるとか、同じセリフを立場が真逆の人間に言わせるとか。
そういう王道の演出がてんこ盛りで、テンポ良い語りに安心して身を預けていられる感じが心地よいです。
なんだかんだでハリウッド映画話法は興味を持続させる術という意味において楽しいですね、ホントに。

実話ベースということだけれども、”アメリカン・ドリーム”ものの、教科書的な映画だなとも思いましたかね。
人種差別の社会背景はあるけれども、その描写においては深刻になりすぎず「ジョン・グレンを宇宙に送り無事に帰還させるプロジェクト」という小学生でも知っているアメリカ万歳ヒストリーのアナザービュウです。この力点のおき方がヒットしたという理由かと思いました。
(単に黒人女性への差別についてなら「ヘルプ」が構成が巧みで面白かった)

でもまぁ気になったのは、主人公3人の女性たちの素晴らしいさとは対照的に、ケヴィン・コスナーやマハーシャラ・アリやその他の男性キャラクターの映画き方が寸足らず、および類型的だったこと。
それはある種意図的なことかもしれないけど、コスナーの役柄は描き込み不足だと思ったし(コスナーの演技そのものは良かったよ)、マハーシャラ・アリの役なんて、白馬の王子様以外のなにものでもない(笑)。今これ性別逆転させて描写したら怒られるよ。まぁ白馬の王子様でもいいけど、主人公の生涯の伴侶となる男としてはどうかと思うキャラクター設定であると思った。
キャラクター構成と物語展開のバランスを考えてこうなったと思うんだけど、ケヴィン・コスナーの役柄はもうちょっと濃くできたと思う。

あと、ジョン・グレンは快男児すぎるね、いい意味で。まぁガチの英雄だからね。

正直なところ、感動したし面白かったし、クストリッツァの後で疲れていたのに眠くならなかったし、いい映画だと思った。
…なんだけど、3日後にはおぼろげにしか覚えていなさそう(現に今そんな感じ)。なんだろうか、この引っ掛かりの無さ(NASA)は。

それにしても、黒人をまるで汚いものでも見るかのような侮蔑の眼差しというのは本当に醜いし、同じ人間として哀しい。
(図書館で本を借りられなかったとか、初めて知って怒りました)
その中で絶妙な塩梅の役柄を引き受けてしっかり演じたキルスティン・ダンストは偉いと思う。
白人男性と黒人女性の間のヒエラルキーにある状況下で、彼女だって女性として男性社会に冷遇されながら自らの”資質”を認めさせたかったはず。
その焦りや嫉妬やなんやかやを、キルスティン・ダンストは表現できていたと思う。無意識の差別に自ら気付く感じとかね。
あのトイレの鏡越しの対話シーンは名シーンじゃないでしょうか。

あと声を大にして言いたいけど、キルスティン・ダンストはブスじゃないぞ!
こうん

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