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ドリームのAKのレビュー・感想・評価

ドリーム(2016年製作の映画)
4.0
最高の映画である。人種差別、性差別をテーマとしながら、それに抗う主人公三人[Hidden Figures]の闘いがとにかく素晴らしく素敵なのだ。「私は差別してないわよ」と理解者ぶることの差別性、「ただ気づかない」でいることの差別性もきっちり描かれる。白く差別的なNASAはカラードを最後に受け入れる。プロットもシンプルで実に胸を打つ。

マジで皆観たほうがいい。音楽がファレルとハンス・ジマーというのも面白い。(ファレル最高だけど、ちょっと目立ち過ぎかも?)

ただ、だからこそ文句を言わせてほしい。結局のところ本作は能力主義を称揚する映画だ。なぜか?能力主義は人種差別も性差別もしないからだ。ではそれの一体何が問題なのか? ひっくり返して考えれば答えは単純だ。差別をされたくなければ、能力を示せ、という個人主義に行き着くからだ。つまりこの映画の反差別には、大きな社会がない。極めて新自由主義的な想像力が物語の背後にある。

もう一点の問題は、作品内における労働の言説だ。本作で最もリベラルで反差別的な(能力で人を測るともいえる)ケヴィン・コスナーが「残業代は出ない」と宣言する時、国家威信を看板にした究極の「やりがい搾取」が発動される。「機械が動かないかぎり、一切の賃金を払わない」とし、機械が動いたら人員をカットする時、この映画はすでに2010年代における新自由主義的な労働搾取を是としてしまっている。

映画原題は「Hidden Figures」つまり「隠されていた人々」ということであるが、本作において歴史から消えるのは、ブラック・パンサー的な想像力である。非暴力のキングはアイコンとして必要とされるが、マルコムはこの映画には必要とされない。革命なきあとのブラック・ムービー。それは資本や新自由主義のロジックと少なからず寝なければ成立しない。

このような問題点こみで、本作は議論対象としてあまりに魅力的だ。
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