ちろる

ドリームのちろるのレビュー・感想・評価

ドリーム(2016年製作の映画)
4.7
ほんとうに丁寧に作られてると感じる作品。
ストーリー、脚本、演出、エンターテイメント性そのどれもがぐうの音も出ないほどに上手く組み合わさって、よくぞここまでのエピソードをバランスよく無駄なく、しかも分かりやすく2時間に入れ込めたなーと感心してしまう秀作だった。

アメリカが宇宙開発でソ連に遅れを取っている頃、NASAのスタッフたちは政府からの圧力や期待でフル回転。
そんな男性上位、白人と黒人が分離政策の真っ只中にあるNASAに航空宇宙学のエキスパートとなる3人の黒人女性いた!!という史実ですが、この描き方がアメリカの人種差別を描いた作品の中でも重々しくなく、悲観的でもなく実に小気味いいのだ。
60年代始めNASAの中で密かに黒人女性たちは施設の片隅の地下に追いやられ、コンピュータマシンとして計算をひたすらさせられた上で正社員にもなれず使い捨て。
そんな時代の中でアメリカ初である有人宇宙飛行のマーキュリー計画で焦るNASAの中枢部で、一刻も早く正確に軌道計算をできるコンピューター(計算係)として白羽の矢が立った数学の天才キャサリン。
でも昇進した部署の建物には有色人種用トイレがないし、ポットも使えずコーヒーも自由に飲めない。
エリートなNASAの職員たちはあからさまな人種差別はしないけれど、日常化した人種分離政策が当たり前すぎて、悪い事とも感じていない。そんな理不尽すぎる状況の中で度々印象的に出てくる言葉は「前例がないから」。
軌道計算が一刻を争う時期に重要な会議にさえ参加できないキャサリンだけでなく、黒人が工学の学位が取れないことでエンジニアの部署には所属できないメアリーもプログラミングの知識があるドロシーも、「前例がない」というこんな言葉が大きな壁となったせいでアメリカの夢になかなか加担できずにいて、最終的に宇宙開発においてアメリカがソ連に遅れをとっていたとしたらとても皮肉だ。

優秀でも虐げられて、十分な対価も払われずにいた彼女たちは、差別的な扱いにすぐに声を荒げるわけではなく、理不尽な現実を耐えながらも実力を周りにじわじわと見せつけて自分の存在意義をしっかりと認めさせてから溜まった想いを吐き出す。
彼女たちが戦いを挑まずにとても冷静に権利を勝ち取ろうとしたのは、きっと彼女たちが黒人女性として白人に勝ちたいのではなく、NASAの全てのスタッフと同じく、アメリカ人として宇宙開発に夢を抱いていたからだろう。

1960年代、キング牧師が人種隔離政策反対の激しい運動している影で、黒人女性たちが知性とプライドを武器に白人男性たちと肩を並べてアメリカの一歩前進に関わっていたとは全く知らなかった。
彼女たちの貢献した内容が最近まで明るみに出なかったとのことなので、それは人種差別的観点だけでなく、男性であるキング牧師より先に讃えられないようにした、黒人社会のなかの男女差別的な観点なのかなぁーとふと考えたりも、、、。
まさしくそういう意味でも原題"hidden figures"(隠された人たち)だったんだねーとしみじみ思ってしまった。


私は航空宇宙学なんて全然わからないし、正直数学が苦手だ。
でも数学って無機質で冷たいものなんじゃなくて、キラキラした夢や希望なんだなとこの作品を観て感じて羨ましくなった。
これは是非、たくさんの子供達にも見てほしい。なんでもありなんだー未来は自分たちが変えればいいんだ!ということを説教じみた雰囲気もなく、スカッとジャパン的の要素も子どもにも受けるんじゃないかなと思う。

キルスティン ダンストの老けっぷりにショックを受けつつ、かなり落ち着いたおじさまになったケヴィン コスナーにときめいたり、マハーシャラ アリのセクシーな声にとろけて、キャスティングにも十分楽しめたし、ファレルの60年代風アレンジのサウンドも歌詞も最高だったからラストまでずっと心地よい作品でした。
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