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ドリームのsatoshiのレビュー・感想・評価

ドリーム(2016年製作の映画)
4.6
 原題「HIDDEN FIGURES」。訳すと、「隠された数式」本作は「数学」がメインテーマとなているので、その意味もあります。しかし、「能力はあるのに不当に差別され、存在が知られていなかった人」の意味もある、というように、いくつにも意味が重なっているタイトルです。本作はマーキュリー計画において、その天才的な能力を以て貢献した女性を黒人差別、女性差別を絡めて描いた作品です。本作の素晴らしいのはこの要素が完璧に合体して、一級のエンターテイメント作品となっている点です。

 内容は差別を扱ったものですが、そこまで声高に訴えることはなく、主張としてはむしろ「能力のあるやつには相応の仕事をさせろ。それが一番効率的だ」という、至極真っ当なものです。そしてこのテーマは劇中の宇宙開発とも密接にリンクしています。「宇宙に行く」ことは「前例がない」ことです。少なくともアメリカにおいては。そして、「女性の、しかも黒人を参加させる」ことも「前例がないこと」です。つまり、「前例がない」とかいう理由だけで差別をしている人間は「前例のないこと」などできないのです。

 面白いのは、本作の主人公たちの障害となっているのが、人々の中にある無自覚な差別意識だということ。だからこそタチが悪い。日本でも同じようなこと起こってるし。しかし、本作ではこういった障害を乗り越える姿をシリアスではなく、明るく、エンタメとして描いています。NASAの組織ではこの差別が形として現れていて、コーヒーポッドとかトイレとかもそうですが、最たるものは別棟ですね。正に「脇に押し込められている」姿を形として見せています。故に、終盤で皆が出てきて、白人と合流するシーンでは、彼女らが「解放」されたようで、カタルシスを得るわけです。

 差別する側の白人も、単純な「悪」として描いているわけではないのです。才能を認めることで、ちゃんと意識を改善する存在として描かれています。ここら辺もフラットだなと。その最たる存在はケビン・コスナーで、彼が言わば黒人と白人の橋渡し的存在となっていると思います。

 後は印象的なのはチョーク。キャサリンが才能を示すシーンで2度出てくるのですが、それらがちゃんと呼応するものになっています。あそこは本当にうまいし、純粋に感動します。

 ここまで、彼女たちの活躍を見せられた後に出てくるタイトル「HIDDEN FIGURES」。タイミングが完璧すぎてここでも感動です。

 本作は差別が前面に出ていますが、もう1つ重要なテーマがあると思います。「勉強しとけば、それは自分を救ってくれる」というものです。先に書いた解放シーンがあったのも、彼女らがエンジニアの勉強をしていたからでした。こういう意味で、学生にもぜひ見てほしいですね。後は、主張をするには、感情論だけではなく、論理的に、相手にメリットを示して交渉するところも見習いたいものです。

 後は音楽も良いし、役者も良いしで、文句の付け所もなく、素晴らしい映画でした。
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