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ドリームのスコットのレビュー・感想・評価

ドリーム(2016年製作の映画)
3.4
1960年代初頭、【宇宙飛行士を宇宙に送り出し無事に帰還させる】という一大事業に尽力、NASAで“影の立役者”として活躍した3人の黒人女性の実話を描いた作品。


『黒人だから...』『女だから...』と、仕事でもプライベートでも隅に追いやられながらも、強くたくましく生きる3人の女性が、いかにして偉業達成を成し遂げ、そして認められたのかを、時間軸という点で若干の“過剰な脚色”があることにより、実にシンプルで分かりやすく見られる作品となっている。

正直盛り上がりは少なくて、アクの強い主要キャラクターとスタイリッシュな編集という割には退屈な作品という印象だったけど、人種差別の描写については目を見張る点はチラホラ。

例えば、非白人の人でも強硬的な手段を持って行う、“人種差別撤廃しろ!”というデモに対しては懐疑的な考えを持つ人ももちろんいる。マイノリティがみな必ずしも不便を感じてる訳でもなければ、声高に『マイノリティを受け入れろ!』と叫ぶだけでは、結局ただの自己満足に過ぎなくなる。
悪い白人も良い白人も、良い黒人も悪い黒人もいる前提を踏まえて、【問題なのは白人が良い職に就いてることではなく、人種で何もかもが左右されるということ】だと理解して、それから議論していくのが必要なんじゃないだろうか...。
昨今活発化しているパフォーマンスになってしまってるデモや、アカデミー賞などでの一部映画人による片面的なスピーチ・発言に多少の違和感があったので、一層こう感じてしまう。


ちなみにこの作品の邦題が決まった時、結構大きな騒ぎになったことを覚えているだろうか。批判が大きかったために副題は撤廃されたが、当初の邦題は『ドリーム 私たちのアポロ計画』。
しかしこの作品において、月面着陸の“アポロ計画”は映画に関わってこないし(正しくはマーキュリー計画。終盤で月面着陸の計画を匂わせるシーンはあるが本筋とは無関係)、【ドリーム】なんていう圧倒的無難かつ主人公目線に立ってない最低のタイトルをつけた配給会社には怒りを通り越して呆れる。
なによりこの作品では、隠れた人物たち/隠された数字というダブルで重要な意味を持つ“Hidden Figures”という原題がピッタリだったからこそ、余計に腹立たしい。
日本の配給会社には、【集客のための邦題】ではなく、【映画のための邦題】をにつけて欲しいと切に願う。


それと、主人公を演じたタラジ・P・ヘンソンが、ケヴィン・コスナー演じる上司に対し、トイレだったりコーヒーだったりを白人用と非白人用で分ける事によって不便が起きていると、涙ながらに苦しみをぶちまけるシーンは素晴らしいの一言。間違いなく名シーン、名演技。なぜタラジはアカデミー賞主演女優賞にノミネートされなかったのか、実に不思議でならない。
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