真田ピロシキ

ドリームの真田ピロシキのレビュー・感想・評価

ドリーム(2016年製作の映画)
4.9
非の打ち所がなさすぎて言えることがあまりない。

飛び級で学校に入り奨学金を全額支給された上に教師からカンパされる程に優秀なのに黒人だから女性だからという理由で不当に道を塞がれる。差別に対する物語であるが、差別が不条理で非効率なんてのは今更疑いようのない当然のこととして(世の中にはその認識すらない人が多そうだけど)更に深い所に潜り込む。

まず差別心は誰しもが持ち合わせていること。同じ黒人であってもつい女だからと軽んじてしまうように、被差別者や差別に嫌悪感を覚えられる人間にも存在する。自分では意識できていないのが難しい所で「貴女が偏見を持っていないと思い込んでいるのは知っています」とドロシーに指摘されるミッチェルのような普通の人の方があからさまなレイシストよりも世の大勢を占めていて根深い。NASAに勤めている頭の良い人達ですら逃れられない。むしろ優秀な人ほどプライドが邪魔をする側面があるのではないだろうか。キャサリンに横柄な態度を取るスタッフォード。彼には「黒人で女なのに何で俺よりも」そんなコンプレックスが見え隠れする。不当じゃないと言い訳するために用いられる規則や前例。そんな規則は破ってしまえ。前例がないなら自分が作ってやろう。そうして道を切り開く強さは差別に限らず現代にある様々な問題にも対する励みとなる。何かとルールを持ち出して思考停止する人達多いからね。

ハリソン本部長は偏見なく能力のみで評価できる人物であるが彼にも欠点があって不条理が見えていない、見ていない。高く買ってるのにキャサリンが度々席を外しているのを見て叱責してしまう。理由は単純なことで建物内には黒人女性用トイレがない。そんなことにすらキャサリンが激昂して反論するまで気付けない。無関心の恐ろしさ。これも特別悪意のない普通の人が陥る罠で性質が悪い。うるさく声を上げて可視化する他ないが、反応がなければ諦めたくなってくる。メアリーも当初は屈しかけていたクソッタレた現実の壁。そいつらを遂にぶっ壊すのが痛快。そして実話を基にしているのがやはり現代の"現実"に対する救いとなる。諦めたらいかんのよ。

平凡極まりないタイトルだが、これですらマシになった方。変更前は最悪で炎上していた。アポロ計画こじつけにしかならないし。確かに月面着陸の話は少しだけ出るけどさあ。クソ邦題以上にヤバいと思ったのは「客如きが配給様のお考えに口出しするな」と言わんばかりに擁護していた映画ファンが少なからずいたこと。どうしてそんな忖度が身に染み付いているのか。おかしいことにはおかしいと言うべきなんですよ。この程度の事に何も言えないと映画のように立ち上がる事は永遠にできないですよ。邦題以外はケチの付け所なし。