派手なアクションはなく、心理的な駆け引きで緊張を保たせる、正しいスパイ映画だった。罠につぐ罠、強烈な暴力シーン、意外な「モグラ」の正体と、まぁまぁ楽しいし、伏線も見事。アメリカ人の彼氏はお人好しすぎて何だかなという気もするが、それも利用する女スパイの逞しさを重視ということで。あと最後のネタバラシのとき、伏線になっていた行為をわざわざ振り返るのはなんかダサい。よくあるけど、本作の場合はスタイリッシュを目指していたと思うので、ちょっと親切すぎるかなと。
ジェニファー・ローレンス演じる主人公は最後まで無表情をつらぬき、彼女の内面を読むのは難しい(バレリーナの身体から程遠いことには目をつむろう)。そんな彼女の選択(本作の主題)は、クライマックスにおける青/赤ランプの点滅に集約される。赤は当然旧共産圏だから、自動的に青がアメリカ。というか一般的に正義は青で表現される。
ヒロインが階段を登るのは、のちに恋愛関係になるCIA局員に出会うときだが、舞台はプールの青い空間。階段をくだるのは、祖国ロシアでのバレエ鑑賞の途中で帰るときで、床の高級な赤いカーペットが目を惹く。
もっとも劇中では、むしろ人間性の欠如をあらわすために、とくに官僚組織の建築物があると青みを帯びた画面になることが多い。逆に、親密な空間は分かりやすく暖かいオレンジの照明がかかる。
東欧の古都を舞台にするからか、なかなか洒落たショットも散見されたが特筆するほどでもなかった。音楽はときどき壮大すぎて、話に合っていないように感じる時も。冒頭のバレエが《眠れる森の美女》なのは捻っていたかな。
スパイ養成学校のエロ授業風景には苦笑い。強迫的なシンメトリーと直線から成る空間の均質性が、ここだけいまだソ連という感じ。変態へのフェラチオを命じられるも行えず泣きながら全裸でうずくまる生徒が、無駄にキマった構図でとらえられた謎ショットは反応に困った。
※ロシア叩いてアメリカ持ち上げすぎじゃね、的な批判あるけど、ロシア関連の不吉な事件の数々からいって、この映画のロシア像は少しも誇張だと思えない。